不登校の子がゼロに、子どもが「学び合う」授業に変えた小学校の大変化 教師自身が学び合う姿勢を持てることが大切
学び合いの根底にあるのは「子どもが学びを好きになること」
学習指導要領が施行されて、すでに5年。途中コロナによる制限があったとはいえ、個別最適化と協働的学びが言われている割には相変わらずです。これはそのために何をすればいいかが明確でなく、学びのスタイルが変わっていかないのではないでしょうか。 また、よい取り組みをしても、校長が変わるとそれが継承されにくいのも要因では。実際、前任校では全校での取り組みはなくなってしまったそうです。しかし、いったんこの学び合いに触れた教師はこのスタイルから離れられないと言います。 なぜなら、子どもたちが主体的に学ぶようになる、その変化を目の前で見れるからです。そして、それぞれの教室での実践は今も続いています。 こんな原先生の地道な活動も、少しずつですが、根付いているようです。前任校で学び合いに手応えを感じたある教員は、転勤先で研究主任になり、校長を説得して全校で取り組むことになったそうです。こうして少しずつドミノが倒れて、全体に広がっていくといいですね。 ある元都立高校の教師は、大隅西小学校の取り組みについて話すと次のような声を寄せてくれました。 “ 「学び合い」の授業、小学生でもここまでできるのか!と、驚くと同時にワクワクした気持ちになりました。高校でも、生徒が生徒に教えたり、自分たちで学び合ったりする学習スタイルは、一部の意欲的な先生たちの間で20年以上前から行われていました。 私も研修会で授業見学をして感動し、自校に戻って試したこともありました。でも、1年間の授業をすべて学び合いにする勇気はありませんでした。 教員として児童生徒の何をサポートしたらいいのか……迷える教員自身が学び合える環境が、日常的に身近にあったらいいですね。 その点、小学校全体が学び合いにシフトしているのは理想的です。教室内の誰一人、見捨てないという思いで日々過ごしていたら、思いやりも同時に育めるし、いじめも生まれないでしょう。こういう取り組みが行われていることは日本の希望です! 波紋のように広がっていったらいいなと思います。” 「多くの先生がこれまでのやり方に薄々疑問を持っていると思うけれど、改革を自分だけでやるのはハードルが高い」と原校長。自分も管理職になったから、全校で広げることができたが、それでも一方的に押し付けるのではなく、教師自身が学び合う姿勢を持てるようにしていくことが大切だと言います。 原校長が、中学校で学び合いの授業を行った結果成績が上がったエピソードを紹介しましたが、大隅西小では不登校の子が0になったそうです。これは学校が子どもにとって、安心して楽しく学べる場所になっている証拠かもしれません。 原校長は、「学び合いは、方法論として捉えられやすいが、根底にあるのは、子どもが学びを好きになること。助けてと言えることです。社会に出て『助けて』『困っている』『教えて』と伝えられることは生きるうえで大切ですが、この視点がこれまでの教育に欠けていた観点ではないか」と言います。 大隅西小では、同時に教師の働き方改革にも取り組んでいますが、これには保護者の理解も欠かせません。そういう意味では、教師にとっても学校が助けてと言える安心安全な場所であることが大切ではないでしょうか。 小中学生の不登校は過去最多の約30万人になっているという現状を考えると、今とくに公教育で大切なのは、学力を伸ばすことではなく、子どもが安心して通える場所であること。誰一人取り残さない、楽しいと思える授業を行うこと。その結果として、子どもたちが「学ぶって楽しいことだ」と思えたら、最高ではないでしょうか。そんなことを思った取材でした。 原校長の実践は大隅西小学校のホームページへ (注記のない写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/ PIXTA)
執筆:教育ジャーナリスト 中曽根陽子・東洋経済education × ICT編集部