不登校の子がゼロに、子どもが「学び合う」授業に変えた小学校の大変化 教師自身が学び合う姿勢を持てることが大切
学び合いの授業を始めたきっかけ
原校長が学びの共同体に出会ったのは、今から20年前。当時勤務していた学校は、なかなか勉強に集中できない子がいる学校でした。 当時は、通常の板書型の授業をしていましたが、授業に参加せず反抗的な態度を取る生徒たちを前に、どうにかしたいと全国の学校を回っているときに、佐藤氏に出会いました。 静岡県の岳陽中で、子どもが主体的に学ぶ授業を目撃し、目から鱗の衝撃を受けた原校長。当時、大阪でそんな授業をやっているところはなく、たった一人で少しずつ授業に取り入れていったそうです。 最初は、50分授業のうちの10分をグループワークにしてみるなどの試行錯誤を少しずつ続け、徐々にその割合を増やして、2年後には今のような子どもたちに任せる授業スタイルを完成していきました。 また転勤先の学校で、勉強が苦手な子が多いクラスを受け持ち、そのスタイルで授業を行ったところ、最初の中間テストの平均点で20点も差があったのが、学年末には逆転したのです。 当然、学校内でも興味を持つ先生が出てきて、校内研修でこの取り組みをほかの先生にも伝えていきました。「共感する先生がいる一方で、反発する先生もいる。けれど、決して無理強いはしませんでした」と原校長。 管理職になってからは、研究会「大阪学びクラブ」を立ち上げ、大阪市全域の学校にメールを出して、有志による勉強会を始めました。その研究会は今も続いています。 その後2017年に小学校の校長になったことをきっかけに、初めて赴任した東三国小学校で、学校全体の取り組みとして学び合いの授業をしたいと伝えたそうです。 教壇を外しいすに座って授業を行う児童目線のクラス運営から始めた学び合いの取り組みは、徐々に学校全体に広がり、その実践を知りたいという外部の先生が見学に来るようになったのです。 ちょうど新学習指導要領の目指す学びの姿が認知されつつあったこともあり、翌年には全校でこの授業スタイルが行われるようになりました。 当然、これまでやったことのない授業スタイルなので、初めて取り組む先生は戸惑います。そこで、校内研究の機会を増やすために、授業の様子をビデオに撮りそれを見て教師も学び合うスタイルに変更しました。これまでの教員研修は、昼間行われていて、その間研修に参加する教師のクラスは自習になっていたのが、ビデオ研修なら子どもが帰った後にできます。 またそれまでの授業研究では、若手教員のダメ出しになることも多かったのが、ビデオ研修では、子どもの様子を注意深く観察します。どんな時に子どもたちは学びに入るのか、反対に離れるのか、そのきっかけはどこにあったのかを注意深く観察するのです。 「このやり方だと、授業をする側だけでなく、見る側も学びになる。子どもの様子をしっかり見取ることで、子どもを観察する力が育まれていき、次の日からの授業に生かすことができる」と原校長。これもヒントになるのではないでしょうか。 2年ごとに転勤になるため、校長になって3校目の大隅西小学校でも、また一からの取り組みです。赴任時が研究指定校の3年目だったため、急にスタイルは変えず、2年目からビデオ研修を行い、全校で学び合いの授業に変えていきました。 私が取材したのは、ちょうど1年経った頃ということになりますが、子どもたちも先生も当たり前のように学び合いの授業を行っていました。教師になって2年目という先生も2人いるそうですが、ビデオ研修のおかげで、今では堂々と授業を回せるようになっているそうです。 佐藤氏は著書(『新版学校を改革する 学びの共同体の構想と実践』〈岩波ブックレット〉)の中で「協同的学びは、学びの本質である。伝統的な学習心理学は子どもの学びを個人の活動として研究してきたが、どんな学びも個人で行われることはない。子どもの学びの権利を実現するためには協同的学びによって、子ども同士が学び合うより他に方法はない。小グループの協同的学びが、学力の低い子どもの学力を回復する機能を発揮する。協同的学びが、学力の高い子どもにもより高い学力を保障する」と述べています。 こんなに成果が出ているのなら、もっと広がってもいいはずなのに、大阪全体の95%で従来型の一方通行の授業が行われているそうです。これは大阪だけではありません。