アリゲーター・ガー、ピラニアなども棲息 外来種の宝庫と化す多摩川
こうしたペット生物は、販売されるときはほとんどが小さな幼魚・稚魚で、最初は小さな水槽で飼育することもできるのですが、成長するにつれ、場所をとるようになり、さらに餌代もバカにならなくなってきます。最初はそんなに大きくなるとは知らずに購入した人たちが、物理的・経済的理由で手放してしまうというのが、多くの放逐のケースと考えられます。 今後こうした問題を避けるためには、まず飼育者自身が外来動物を飼育する前に、その動物がどれだけ大きく成長するのか、またどれくらい長く生きるのか、といった生物学的な情報を十分に収集した上で、本当に最後まで面倒を見れるのかを判断することが大切だといえるでしょう。
佐賀のため池、名古屋城のお堀にも野生化したアリゲーター・ガーが発見される
ところで、多摩川でも発見されているアリゲーター・ガーといわれる魚は、ここ最近、日本各地の沼やため池、河川でも野生化が数多く報告されています。筆者自身も、トンボの調査で佐賀平野を訪れたとき、クリークと言われる水路兼ため池にガーと思われる魚影が悠々と泳いでいくのを見つけて驚いたことがあります。 アリゲーター・ガーはアメリカ南部から中米にかけて生息する肉食性の淡水魚で、成長すると2メートルを超える世界最大級の淡水魚とされます。巨大な口に鋭い牙がびっしりと生えており、ワニと見まがうその頭部からこの名前がついています。そのエキセントリックな姿形からペットとして人気があり、飼育者も増えたと思われます。しかし、2メートルにも成長するこの大型魚を死ぬまで飼育できる施設を一般家庭が持つことには相当無理があります。
特に話題になっているのが名古屋城のお堀に定着しているアリゲーター・ガーです。今から8年前にその姿が確認されて以降、毎年成長を続け、今では1.3メートルの大物になってしまいました。お堀のような閉じた環境で、よくそんなに大きくなるものだと思われる方もいるかも知れませんが、お堀の中にはアメリカザリガニやウシガエル、コイ等の外来種が大量に繁殖しており、餌には困らないようです。いわば、外来種の生態系が出来上がっているのです。 名古屋市としてもいつまでも巨大な外来魚を放置する訳にもいかず、定置網や刺し網を仕掛ける等して捕獲作戦を展開してきましたが、いずれも失敗に終わっています。ならば、釣り上げようと地元の釣りの名士たちが名乗りを上げているそうですが、実は条例でお堀での釣りは禁止されており、このケースについても市の許可が降りないのだそうです。 いっそ水をぬけば、外来種の一掃ができるのですが、名古屋城は国の特別史跡に指定されており、保護を任されている市としては石垣が崩れる恐れがあるとして、水抜きも許可は難しいとのこと。本種は2018年4月から環境省・外来生物法の「特定外来生物」として正式に規制対象となる予定となっており、駆除が義務づけられる名古屋市としては本当に頭の痛い問題となっています。 そんな人間たちの憂鬱をよそに悠々とお堀を泳ぐ巨大ガーは、さながら現代の古城の主といったところでしょうか。 【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い(国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)