【インタビュー】マラッカ海峡協議会会長・池田潤一郎氏、マラッカ・シンガポール海峡の航行安全を支える日本の取り組み
――マラッカ海峡協議会の活動の中で代表となる共同水路測量の経緯について教えてほしい。 「航行安全の確保に正確な海図は不可欠だが、その大前提は水路測量が必要となる。マ協が設立されて最初に取り組んだのが水路測量事業であり、第1回目は1969―75年に実施された」 「その後行われた第2回目(96―98年)の測定を踏まえて分離通航帯(TSS)が延長されるなど、測量を重ねることで航路の状況も判明し、航行安全に資するようになっていった。とはいえ、海底地形は潮流によって変化していくほか、マラッカ・シンガポール海峡(マ・シ海峡)の通航量増加や船舶の大型化など、より精度の高い電子海図の作成が求められるようになったことも事実」 「そのため、沿岸3カ国から日本に対して水路測量の実施に関する協力要請があり、第3回水路測量が2015年から実施されることになった」 ――第3回測量では当初、中国・インドが参画する話があったと聞く。 「14年10月に日本と沿岸3カ国による共同水路測量の実施が公式に発表された際、中国とインドからも直ちに参加したいとの申し出があったが、沿岸国はこれを拒否した経緯がある」 「海底地形は安全保障に関わる重要情報。現在、軍事的なプレゼンスを高めている中国・インドであればなおさら、沿岸3カ国が自国領海の測量を認めることはなかったのではないか。他方、日本は沿岸3カ国と過去2回の実績があるほか、60年代から培ってきた長い信頼関係がある。マ協が設立当初からヒト・モノ・カネを出して沿岸国の人材育成をサポートしてきた結果だと思っている」 「マ・シ海峡は領海未確定地域があるため、3カ国だけではどうしても利害が錯綜(さくそう)して対立しかねない。3カ国から中立的な立場として日本が信頼されているのは、長年の国際協力の在り方を示すだけでなく、アジアにおける日本のプレゼンスを維持する上でも意義あることだと思っている」