心の復興をテーマにした映画「港に灯がともる」制作進む…阪神大震災発生30年
街が復興しても、心が癒えない人が大勢いる――。阪神大震災で被災者の心のケアに奔走した精神科医・安克昌(あんかつまさ)さん(2000年死去)が目指した「心の復興」をテーマにした映画「港に灯(ひ)がともる」の制作が神戸市で進められている。震災直後の神戸に生まれた在日韓国人女性が心の不調と向き合いながら、街の復興にかかわる過程で立ち直る姿を描いた物語で、発生30年の来年1月17日に全国で公開される予定。(神戸総局 辻井花歩) 主演の富田さん(ミナトスタジオ提供)
制作の旗振り役は、安さんの弟で社会保険労務士の安成洋(せいよう)さん(60)。NHK連続テレビ小説「花子とアン」などを手がけた演出家、安達もじりさん(47)に監督を依頼した。
制作陣は被災者ら30人以上に、家や仕事を失った苦悩を取材。火災で壊滅的な被害が出た神戸市長田区に生まれた在日韓国人3世の主人公・金子灯(あかり)が、家族から聞かされる被災経験や自身の出自などに悩んで双極性障害を発症し、心のケアを受けて回復を目指す中、同区の再開発事業に関わりながら成長していく――という物語を仕立てた。
灯役は、小学5年の時に東日本大震災で被災した福島県いわき市出身の女優、富田望生(みう)さん(24)で、神戸市出身の女優、山之内すずさん(22)が、主人公に寄り添う友人役を務める。
成洋さんが映画制作を始めたきっかけは、2020年に放映された兄が主人公のモデルとなったNHKドラマ「心の傷を癒(いや)すということ」を見たこと。震災当時、各地の避難所を訪問しながら被災したお年寄りや子どもたちと膝をつき合わせ、悩み事に耳を傾ける兄の姿に「震災だけでなく、心のケアの大切さも語り継ぎたい」と思った。
有志で製作委員会を結成し、ドラマを再編集して映画化。翌年1~4月に劇場公開し、その後も全国約160会場で上映した。ただ、「当時のことを思い出してしまうから、映画を見られない」という被災者もいて、兄の言葉を思い出した。 <街が復興しても、被災者の心の傷は癒えることはない>