正月彩る農産物の今 飾りのダイダイ プラスチック製代用品が増加…
正月を彩る農産物は多い。一方、以前はよく出回っていたのに、最近は見かけることが少なくなったものもある。そんな品目の今を日本農業新聞「農家の特報班」が前・後編の2回にわたって探る。前編は、正月の玄関飾りや鏡餅に使われるかんきつ類のダイダイ。プラスチック製の代用品を見かけることも多い。このまま消えていってしまうのか――。 【データで見る】ダイダイの出荷量は減少傾向が続く
根強い需要も 収穫量は年々減少
玄関飾りにダイダイがどれくらい使われているか探るため、記者は、千葉市で正月飾りを制作する大手メーカー、山一商店を訪れた。 年末が近付く12月上旬。作業場では、数人の女性が稲わらで編まれた玄関飾りに、ダイダイをくくり付ける作業に追われていた。 「生のダイダイを使った伝統的な玄関飾りの需要は、地方部を中心に根強くある」。取材に応じてくれた同社営業部の高橋仁課長は、そう説明する。 高橋課長によると、最近の玄関飾りは近代的なデザインの家に合う、しめ縄をリース状にしたタイプが流行している。同社の売り上げのうち、関東に限って言えば9割はリースタイプで、飾りにかんきつは使われない。
それでも山陰地方などでは、子孫繁栄の願いが込められた縁起物として「今も、ダイダイを使った伝統的な飾りを使う家庭が多い」といい、現在も同社の主力商品の一つとなっている。 ただ、ここ数年はダイダイの数量を確保するのに苦労している。同社が昨年、飾り用に仕入れた数量は約17トン。「必要数はなんとか確保しているが、調達は毎年ギリギリの状態」(高橋課長)。 なぜか――。高橋課長は「取引している産地の収穫量が年々減っている」と話す。「需要はあるので、まとまった量を作ることができる別の産地があれば、取引したい。でもなかなか見付からなくて…」と悩む。 産地では今、何が起きているのか。記者は、国内のダイダイ主力産地の一つ、静岡県伊東市に飛び、さらに取材を進めた。
高所作業がネックに
記者が訪れたのは、静岡県伊東市の山あい。ダイダイが実る木は5メートルを超える老木で、上部の果実は脚立などを使わなければ収穫できそうにない。 「高齢になると、こんな高い木に登って収穫するのは本当に大変」。同市でダイダイ6アールを栽培する稲葉安雄さん(67)は、自身の木を記者を案内しながら、そう説明した。 管内は江戸時代末期から続くダイダイ産地。推定樹齢100年を超える、高く伸びた老木も多い。高所での作業を理由に、ダイダイ栽培をやめた農家も少なくないという。 地元のJAふじ伊豆のあいら伊豆営農経済センターによると、管内のダイダイ生産者数は2006年時点で270人いたが、現在は102人に減った。