「異常気象」と憲法改正―自民党総裁選三選の安倍首相に求めたい新理念
「気候爆発」と地球生命の危機
話は変わるが、今年の夏は世界各地で異常気象による犠牲者が出た。人類の文明が生み出す温室効果ガス、主としてCO2(二酸化炭素)による気候変動がシリアスな問題であることを改めて感じさせた。 僕の友人(高校と大学の同級生)に、南極観測隊長兼越冬隊長、国立極地研究所長などを歴任した藤井理行君がいて、彼の話にはリアリティが感じられる。彼は、南極の氷を深く掘り下げて過去72万年に及ぶ大気のCO2濃度と平均気温を調べ、両者はなだらかに並行して変動していたことを明らかにしたのだが、直近の100年はCO2濃度の異常な上昇が続き、急速に温暖化が進んで、北極の氷はかなり減少し、近年は南極の氷も減少し始めているというのだ。 つまりこれは19世紀以来の人口爆発と同様の「気候爆発」ともいうべき状況である。 人類は大気圏と海洋に挟まれた陸地に棲息している。大気も海洋も深いようだが実は地球という惑星の表面を覆う薄い層に過ぎない。今人類は、海洋にプラスチックのゴミをばら撒き、大気にCO2を大量に排出し、広い宇宙に奇跡的に存在するこの素晴らしい「生命の薄層」を危機にさらしている。 人類の危機であるばかりか生命の危機である。 にもかかわらず世界の国々は、前々回に述べたような「自国主義的対立」に向かっているのだ。この大きな矛盾が、この時期に進められようとする憲法改正に示唆するものはないのだろうか。
実現困難なCO2排出量削減対策
この問題に関しては産業技術に詳しい人ほど悲観的だ。 CO2はあらゆる産業から排出されるもので、これまでの技術者はCOやSOxやNOxという有害ガスを減らし、むしろCO2という無害な(つまり反応しない)ガスを増やす努力をしてきた。そのCO2を減らすというのは、いわば「神技術」なのだ。 金属工業や化学工業によっても排出されるが、現在の文明は「電力」に支えられており、発電過程で大量に排出されることが大きな問題である。 対応策としては次のようなものが考えられるが、それぞれ課題もある。 ・電力需要の抑制=文明の抑制:これから経済発展する途上国の多くは熱帯または亜熱帯に位置するので、冷房需要が増大して大量のCO2が排出される。とはいえ途上国の発展を抑えることはきわめて困難である。幸福とは何かというところから考え直し、文明の質を変える必要がある。 ・自然(再生可能)エネルギーの現実的有効化:自然エネルギーの利用は、その供給量、安定性、効率などの点で、一部の人が唱えるほど夢のような話ではない。現在の買い取り制度は政治的な力によって、変電や配電のコストを電力会社に(実は国民に)負担させている。本当の意味での現実的有効性を追求するには、シビアなコスト条件下の技術開発が必要だ。 ・原子力エネルギーの安全活用:原子力エネルギーが安全とはいえないことはすでに証明された。放射性廃棄物の処理問題も解決していないし、廃炉にも膨大なコストがかかる。しかしこれは人類が到達した究極のエネルギー(燃焼とはまったく異なる質量そのもののエネルギー転換)である。平和利用の道は諦めたくない。スリーマイル、チェルノブイリ、福島と大きな事故を経験してきた人類は、今、少しでも安全な方向に導く努力を継続するべきではないか。完全に安全な技術というものは存在しない。 ・CO2吸収対策:海洋にもCO2を吸収する作用があり、技術的な解決も考えられているが、今はまだ量が追いつかない。光合成(炭酸同化作用または炭素固定)のある森林の後退、すなわち砂漠化がダブルパンチである。大量の植林が必要だ。 いずれもきわめて困難な対策であり、排出量の膨大さを考えれば絶望的ですらある。