男性更年期障害のとんでもない誤解:下部尿路症状の経験を「患者中心の医療」で読み解く
患者中心の医療の方法とは
K.W.さんのケースに戻ろう。この後は、いくつかの検査をして診断に近づけ、それに応じた治療法を行うことが通常の医療かもしれない。でも、今のK.W.さんの思いはどうなのだろう。彼にとって本当に辛いことは何なのだろう。 それを理解するために、家庭医は「患者中心の医療の方法」を使う。 家庭医(日本では総合診療専門医とも呼ばれる)がその専門性のコアとして習得するアプローチは「患者中心の医療の方法(Patient-Centered Clinical Method; PCCM)」と呼ばれている。PCCMを実際の診療に取り入れるためには、私が監訳した専門書(24年に最新版が出版された)などの内容を理解しつつ、実際のケアの現場で指導医とともに自らの診療を振り返る専門研修が数年は必要であり、講演などの座学のみで習得できるものではない。 一般の読者にも興味を持ってもらいたいので、ここでごくごく簡単にPCCMの概要を説明したい。 PCCMは、(1)健康・疾患・病気の経験を探る、(2)全人的に理解する、(3)共通の理解基盤を見出す、(4)患者-家庭医の人間関係を強化する、という相互に作用する4つの構成要素からなる。 (1)では、疾患を探索し、健康と病気についての患者の認識を探る。家庭医は、積極的に患者の世界に入り込もうと努力する。ここで健康(health)とは患者にとって目指すべき健康の意味、疾患(disease)とは病理学的プロセスを説明するためのラベル、病気(illness)とは心身の不具合についてのその患者の個人的経験のことである。同じ「疾患」を持っていても「病気」はその患者特有のものであり個別の理解が必要になる。 (2)では、患者がもつ健康・疾患・病気の経験を理解し、コンテクスト(context、その人を取り巻く様々な要素)を含めた全人的理解へ統合させる。個々の患者が生きる世界のコンテクストに置かれて初めて、臨床の情報は役に立つ知識となる。多くの健康上の問題は、それらについてのコンテクストの中で見ないかぎり完全に理解することはできない。 (3)では、「何が問題か」「ケアのゴールと優先順位」「患者も含めケアチームそれぞれの役割分担」という3つの領域で患者と家庭医が相互に理解・同意する。この構成要素はPCCMの4つの構成要素すべてを統合させていく過程である。患者の利益を最大限優先する「患者にとっての真の代理人」としての家庭医の能力が発揮される場面だ。 (4)では、家庭医が自らを振り返り、同僚と意見交換しながら洞察を深める過程を並行させながら、同情、思いやり、共感、信頼、力の共有、継続性、恒久性、癒し、そして希望を含む、患者との持続的なパートナーシップを築いていく。 PCCMは、患者満足度、治療アドヒアランス、健康の自己評価、いくつかの疾患での検査データなどで、それぞれの指標を改善する有益性が臨床研究で示されている。また、PCCMによって、診断検査の使用はより少なく、他科専門医への紹介もより少ないこと、そして家庭医の診療の質の高さが医療費の減少と関連していることも臨床研究で示されている。