男性更年期障害のとんでもない誤解:下部尿路症状の経験を「患者中心の医療」で読み解く
前立腺肥大症とは
前立腺は、男性で膀胱とペニスの間にある骨盤内の臓器で、通常クルミぐらいの大きさである。その前立腺が大きくなると、膀胱と尿道(尿が通る管)に圧力がかかり、LUTSを引き起こす可能性がある。 前立腺肥大症は、男性の下部尿路症状の最も一般的な原因である。英語では、「良性前立腺肥大症」を意味するbenign prostatic hyperplasia(BPH)と呼ばれる。良性とは、がんなどの悪性疾患によって前立腺が大きくなっているのではない、という意味である。 日本ではなぜか良性をつけない「前立腺肥大症」が疾患名として使われる。英国では、benign prostatic enlargement(BPE)と呼ばれることが多い。なお、今回「男性」という言葉は、生まれた時に男性として性別が割り当てられた人について述べることを意図している。 日本での相当する統計は見出すことができなかったが、BPH によるLUTSは、米国では 30 歳以上の男性の約 4 分の 1 に影響を与えていて、その半数以上が少なくとも中程度の症状を呈しており、3 分の 1 が治療を受けている。多くの男性は、BPHがあると前立腺がんを発症するリスクが高まると心配しているが、それは事実ではない。
前立腺肥大症のリスク要因
数多くの臨床研究が前立腺肥大症のリスク要因を調べていて、その概要は下記の通りである。 ・LUTSは、一般的に 30 歳以上の男性に発生し、年齢とともにより多く発生する。 ・アルコールについては、 定期的な少量の飲酒は、アルコールの利尿作用のためかLUTSの増加と関連していた。中程度から大量の飲酒がLUTSに与える影響については、まだ不明だ。 ・喫煙は、 50 pack-year(1日の喫煙箱数×喫煙年数)以上の喫煙歴がLUTSの重症度と関連していた。一方、喫煙量が少ない場合の影響については、まだ不明だ。 ・糖尿病については、60 歳以上の男性の場合、インスリン使用量の増加が、前立腺の容積およびLUTSの重症度と関連していた。 ・高血圧も、LUTSの増加および前立腺容積の増加と関連しており、治療薬(アルファ遮断薬)の有効性を低下させる可能性があった。 ・肥満は、BMI の増加に伴ってLUTSがより多く発生した。肥満があると、30歳未満の男性でもLUTSの発生率が上昇しているという証拠がいくつかある。 ・座りがちな生活習慣と毎日の歩行不足はLUTSの進行と関連しており、運動量が少ない男性ではLUTSがより多く見られた。