結婚式に空爆、花嫁だった娘を失った…内戦逃れジブチへ、イエメン難民の今
空爆 ── 幸せは一瞬で悲劇に
同じ2015年9月に妻と7人の子ども達と共にマルカジキャンプに逃れて来たというサイードさん(52歳)はかつて漁師として暮らしていました。ところが恐ろしい悲劇がサイードさん一家を襲います。 18歳になる娘の結婚式の日、式場がサウジアラビア主導の有志連合による空爆に遭い、娘や親族を含む10数人以上が亡くなりました。シーア派反政府武装組織フーシを狙ったものと思われる誤爆でした。それを機にイエメンを離れることを決断、250人が乗った避難船で7時間かけてオボックへ逃れて来ました。 マルカジキャンプの暮らしはどういったところが大変なのか尋ねましたが、彼の答えは「アルハムドゥリッラー(神に称賛あれ)」。この言葉は、イスラム教において自分の身に起きた何事も神の思し召しであり、真摯に受け止めるという意味合いがあります。 「今はもう家族が殺されることなく、安全に暮らせることに感謝している。いつか内戦が終わればイエメンに戻りたい」とのみ語りました。
国際的に認知されている難民と、陽の当たりにくい人道危機に陥る難民
取材を始めて、多くのイエメン人たちと接する機会がありました。皆、程度に差はあれ厳しい状況下での暮らしを強いられながらも、陽気で明るく親切だったのが非常に印象に残っています。 シリアのように国際的に認知され多くの人道支援がなされている戦争がある一方、イエメンや南スーダンをはじめ同様の人道危機に瀕しながら、広く認知されることのない戦争もあります。それが個人的に解せなかったのが一番の取材動機です。日本にとって地理的にはるか遠い国で起きていることであり、直接的な関わりも薄く、関心を持ちにくいのは仕方がないことかもしれません。 しかし、問題は認知されない限り解決されることはありません。今回現地でイエメン人達の暮らしぶりを見て、話を聞いて、あらためて陽の当たりにくい人道危機に陥っている難民にも目を向けてもらいたいと切に思いました。 ---------- ルーテル世界連盟(LWF): 難民や厳しい状況下にある人々の生活再建支援を目的に、主に教育支援、児童保護、コミュニティーサービス等の活動に取り組んでいる国際NGO。マルカジキャンプにおけるイエメン難民支援以外に、2009年よりソマリアからの難民に対する支援活動をジブチ西部のアリアデやホルホルの難民キャンプ、及びジブチ市内のホストコミュニティーでも実施している。 認定NPO法人アイキャン(ICAN): 現地の人々と共に、厳しい状況下にある子どもたちの生活向上を目的としたプロジェクトを実施する日本のNPO法人。マルカジキャンプでは、子どもの保護活動として子ども達へのアクティビティの提供や保護者への情報提供を行っている。 ---------- 【森 佑一(もり ゆういち)】1985年香川県生まれ。2012年より写真家として活動を始める。2012年5月には DAYS JAPAN フォトジャーナリズム学校主催のワークショップに参加。これまでに東日本大震災被災地、市民デモ、広島、長崎、沖縄を撮影。現在は海外にも活動の場を広げ、戦争や迫害に起因する難民の撮影を中心に取材を行っている。 HP: facebook: