【全文】山田洋次監督が絶賛した京大准教授のスピーチ、「ちひろ美術館」内覧会で
「簡単にふたりにならない」ということ
そして、この展示室のなかで紹介する「ひとりひとり」の絵本のなかに、一番来館者の皆さんに見ていただきたい言葉の一つが、「簡単にふたりにならない」だったんです。ぼくたちはすぐ誰それと「仲良くしましょう」と簡単なことのように言ってしまうのですが、谷川俊太郎さんの詩には、 ひとりひとり 簡単にふたりにならない ひとりひとり だから手がつなげる という言葉があります。 これは国語の授業であったら、「だから」という接続語では怒られそうな気もするんですけど、ここに谷川さんのすごい言葉が入っているんだと思います。 私たちはそんなに簡単に一緒になれるわけではないし、歴史もあるし、諍(いさか)いもあるし、でもそれらを飲み込んででもちゃんと隣にいる。ということが平和に向かう大事な一歩だと思うのです。 今回、この展示の準備をするなかでわかったことでもありますが、ちひろさんの絵は、誰と組んでも相性がいい、これはものすごい力です。ちひろさんの絵だけでなく、今回の谷川さんの詩もそうですし、展示ディレクションをしてくださったplaplaxさんや、音のデザインをしてくださった高見澤音楽室さんたちの絵や音のぜんぶが、誰と組んでもうまくいく。もしかするとこの、「誰とでもうまく組み合わさる力」こそが、これから私たちが誰とでも仲良くするための力になるんじゃないか。僕自身も、この展示にかかわらせていただいたうえで大きな気づきとなったことの一つです。 内覧会がはじまる前に展示室をご案内させていただいたとき、山田洋次監督は、その力をして「よい隙間」と評されていました。 みなさんには、この展示場のなかでたくさんの絵や音、言葉にふれて、誰とでもなかよくなれる力をもちかえってください。でもそれは簡単にはふたりにならないということも含めて皆さんの力にしてもらえたらと思っています。一年間、この展示にかかわらせていただいたおかげで、「へいわ」についてたくさん考えるきっかけをいただきました。 いろんな人に「へいわのはんたいごはなんですか?」と尋ねまわった1年でしたが、自分が生きてきたなかでここまで平和について考え抜く機会をもててなかったこともあり、この展示に関わらせていただく機会をいただきまして本当に感謝しております。 ありがとうございました。
Forbes JAPAN 編集部