【全文】山田洋次監督が絶賛した京大准教授のスピーチ、「ちひろ美術館」内覧会で
90代の読者から――「戦争を経験しています」で始まる便りに書かれていたこと
私たち展示チームは、「へいわがこうあってほしい」を一言では表せないので、ぜひみなさんにも一緒に考えていただきたいという展示構成になっています。へいわの反対語以外にも、へいわに関して浮かんだ問いを30個ほど、館内のいたるところに用意していますので、ぜひともおひとりで、あるいは一緒にこられた方々と考え、話し合っていただきたいです。 ぼく自身は、たとえば90歳を越えた方々に「へいわのはんたいご」を問うことは、少し躊躇をしていました。「そんなのは実際に体験したことがないから、簡単に言えるんだろう」と思われるのではないかと心配していたからです。 しかし、岩波書店の『図書』のなかに平和の反対語について寄稿させていただいたとき、読者の方からお便りを頂戴しました。そこには、実際に90歳を越えてらっしゃったかと思うのですが、「私は戦争を経験しています」と文頭に書かれていたので、最初はてっきりお叱りの言葉をうけるのかと思ってしまいました。 しかし、その方は、「私が反対語を考えるとしたら、それは『不安』という言葉になるかもしれません」と書いてくださっていたんです。この問いをこれまで問うてきたのは、ほとんどが戦争を体験していない人たちだったこともあって、「不安」はあまり出てこなかったキーワードでした。 そして、「その『不安』が薄らいできてはじめて、明日のこと、将来のことが考えられるようになった」というお言葉を聞いてようやく、「反対語を尋ねる」というこの問い方に、少し自信をもつことができるようになりました。 この展示は今回東京館に巡回する前、「安曇野ちひろ美術館」で先行スタートしましたが、本当にどの年齢のかたにもたくさん平和について考えていただくきっかけになったようでした。そのおかげで、こうやって問いかけることにも意味があるんだという自信に少しなりましたし、そのことでおひとりおひとりが考えていただけることが、大事なことだと思うようになりました。 ■「ノーベル平和賞」のみ、選定はスウェーデンではない もうひとつ大事なことをお話ししておきたいのが、このあとのギャラリートークで最初に紹介する部屋の絵本についてです。それは、谷川俊太郎さんの詩といわさきちひろさんの絵がコラボした『ひとりひとり』(2020年、講談社刊)という絵本です。ここに出てくるのが本当にいい詩だらけなんですけれども、ひとりひとりがなにを考えるかというのが大事だというときに、昨日発表があったノーベル平和賞の話題につなげさせてください。 2024年度のノーベル平和賞の授賞者に「日本被団協」が採択されたことで、日本はこれから、しっかりその責務を果たしていきなさいというエールをいただいたのだと思います。そして、そもそも、ノーベル賞の授賞者は誰が選考しているのか。答えは主に「スウェーデン」で、ノーベル物理学賞やノーベル化学賞は、「スウェーデン王立科学アカデミー」などが選定しています。しかし、ノーベル平和賞だけはスウェーデンではなく、ノルウェーが選定しているんです。 これは、アルフレッド・ノーベルが遺言で記したことに端を発しますが、ノルウェーの国会が選出した選考委員が選ぶことになっているんですね。 ノーベル賞が創設された当時、スウェーデンとノルウェーはひとつの国でしたが、対立の歴史も乗り越え、平和で民主的な解決策でノルウェーが独立を果たそうとするなかで、両国に敬意を払ったのではないかともいわれています。そこから100年たったいまも、役割分担をしたなかでノーベル平和賞の授賞者を考えているというのがすごく大事だなと思うと同時に、日本の団体が採択いただいたことをなおさら、しっかり受け止めなければなりません。