侃々諤々の議論を呼ぶ町田の試み。Jリーグはどうあるべきか。現況を看過するだけでは「努力目標」への本気度が問われる
ルールから外れず様々なアイデアや企業努力を追求した結果でもある
ただし一方でJリーグは、2012年に「プラス・クオリティ・プロジェクト」と題して4つの約束を明示している。その中には「リスタートを早くしよう」「抗議、遅延はゼロを目指そう」と謳っており、アクチュアル・プレーイング・タイム(実際のプレー時間)の増加を促している。 確かに町田がロングスローを多用してもルール上は何も問題がない。しかし先述の浦和戦の後半のアディショナルタイムは7分間。VARの介入がなかったのに7分間も追加されたのは、町田のロングスロー多用や、そのタオルを巡る浦和スタッフとの諍い等が影響していることは否めない。 また、対ジュビロ磐田戦では、町田の藤尾翔太がPKを蹴る前に水をかけたボールをレフェリーが交換したわけだが、この行為について佐藤マネジャーは「十分に理解できる」と支持している。 「サッカーの競技規則は、わずか17条しかなく、その判り易さが世界で最も受け入れられた要因。個々の事例について『こういうことはダメだ』と細かく記されているわけではない。しかしだからこそ我々は、フェア、安全、公平という競技規則の精神に則り、現場で起こる出来事に臨機応変な対応をしていく必要がある」(佐藤マネジャー) ルールブックには、ボールに水を「かけてはいけない」とも「かけても良い」とも記されていないわけだが、主審は責任を持って公平感を損なわないための措置を選択したということだ。 町田の行為が波紋を呼ぶのは、ルールから外れず様々なアイデアや企業努力を追求した結果でもある。実際セットプレーの多彩さや熟練度などは、日本代表も参考にしてほしいくらいだ。黒田監督は青森山田高校時代から判定への不満が多かったが、こうして個々のジャッジに躊躇なく疑問を呈するのも、どこまでが許されるのか、その確認作業へのこだわりだと見ることも出来る。 時間をかけて丁寧にロングスローを繰り返す町田の戦い方は、ルール上は問題なく遅延行為とは見なさないのが世界の流れだ。だが、スピーディに実際のプレー時間を伸ばしていこうとするJリーグの努力目標からは外れている。またプロリーグが興行である以上、ファンがロングスローに時間をかけるのをどこまで容認するのか、という問題もある。 既にイングランドの2~4部リーグを管轄するEFLは、スローインの際にタオルでボールを拭くことを禁止した。確かに個々のジャッジについては、ルールの基盤を成す精神に則り、臨機応変な対応をしていくのが、フットボールのあり方だと思う。 しかし反面、努力目標に逆行する行為が賛否を問われているなら、明快な指針を示すのが機構側の責任になる。フットボール文化が浸透したイングランドが世界に先駆けて毅然と方向性を打ち出したのに、Jリーグが現況を看過するだけでは「努力目標」への本気度も問われる。 文●加部究(スポーツライター)