指導や演出の名の下に多発するハラスメントーー美術業界の体質に一石を、女性作家たちの挑戦
リサーチャーで、大学では美術史やアートマネジメントを専攻した高橋ひかりさん(26)は、工藤さんに誘われて参加した。 「そのへんのカフェに集まって、最近どう?みたいな、ほんとに世間話から始まるんです。そのうちに、それぞれが日々生きていく中で感じたちょっとした疑問や、はっきりとは言葉にならない鬱屈を、少しずつ話すようになって。例えば、美大の学生は女性が多いにもかかわらず、教員が男性ばかりだとか、ジェンダーやフェミニズムに関する講義がほとんどないとか、そういうことがだんだん見えてくるんですね」 神谷さんの友人で、韓国から留学していた画家のジン・ヨウルさん(30)も加わり、5人で活動を開始。2019年に入ってからは、メンバーそれぞれが発表者となって勉強会を開いたり、性犯罪被害者支援を行う弁護士や、フェミニストとしても活動するアーティストを招いて公開勉強会を行ったりした。 活動を重ねるうちに、自然に「展覧会を開こう」という話になった。途中、呼びかけ人になった女性作家が脱退し4人になったが、活動継続の意思は変わらなかった。 神谷さんは当初、女性画家の歴史と社会構造をリサーチして、何かつくろうと思っていたという。 「でも、いろいろ考えていくうちに、違うかなと思いました。自分の話をする自信がなくて、避けているだけだって。結局、自分の被害が根本にある。そこにまっすぐ向き合ったほうが、いい作品になるんじゃないかと思うようになりました。『ひととひと』の活動で、個人的な話が社会的な問題と結びつけられていくプロセスを踏んだことが、刺激になったと思います」
関係のない人は誰もいない
神谷さん以外の3人もそれぞれ、女性として生きていく上で直面する問題に、正面から取り組んだ。 工藤さんは、祖母・母・私の3世代の女性の人生を、歴史的な視点で映し出すインスタレーション作品を出した。
映像の中で、娘である私が母に「子どもがいなかったら仕事をしていた?」と聞く。母は「仕事は続けたかったけど、今は子育ての楽しさを知ってるから」と答える。時代の制約の中で精いっぱい、人生を生きてきた女性の姿が浮かび上がる。