指導や演出の名の下に多発するハラスメントーー美術業界の体質に一石を、女性作家たちの挑戦
森山晴香さん(27)は当時、彫刻学科の修士課程に在籍していて、学生有志に名を連ねた。現在は「調査団」のメンバーとして、アンケート調査の作成・集計に携わる。 「(回答を見て)今まで自分は見ないようにしていたんじゃないかとか、あの人のあの発言はSOSだったんじゃないかとか、そういう記憶が思い出されて、すごく自分に刺さりました。ハラスメントをしたとか、ハラスメントを受けていたと気づくのには、時間がかかるんだと思いました」
個人的な体験を表に出すだけでは説得力がない
神谷さんはなぜつくることを手放さずにいられたのか。一義的には母の理解と支援があり、適切な治療につながれたからだが、それに加えて、大切な出会いがあった。 冒頭で紹介したグループ展は「女が5人集まれば皿が割れる」という。女性作家によるコレクティブ「ひととひと」の主催で、神谷さんを含むメンバー4人がそれぞれ作品を展示した。 結成は2017年。「ひととひと」の始まりは、美術業界に絶望していた神谷さんに、「連帯できる人がいるんだ」と体で感じさせるできごとだった。 神谷さんは大学2年のある日、少し年上の女性の美術作家と知り合った。彼女は、神谷さんが性被害にあったことを打ち明けても、一切疑わなかった。 「私が何もできない状態でいることを否定せず『しょうがないよ』と言ってくれたり、『ごはん食べれてる? つくりに行こうか?』と声をかけてくれたり、私が欲しかった言葉をいっぱいくれたんです。100パーセント信じて聞いてくれた。救われました」
2人は、美術業界の内部で起こる性暴力やセクハラについて、どうしたら改善できるか、世の中に知ってもらうことはできないかと考えた。そこで、美術作家の工藤春香さん(43)に声をかけた。工藤さんはこう振り返る。 「はじめは明確な目標があったわけではないんです。ただ、何かできないかと。単に自分たちの個人的な体験を表に出すだけでは説得力がない。私たち自身がもっと、なぜそういうことが起こるのか、なぜ女性の被害が圧倒的に多いのか、その背景や構造を知っていこう、というところから始めました」