営業としては「失格」だったのに...国際的に活躍するシェフの心を開いたコカ・コーラ社営業マンの意外な「姿勢」
聞き役に徹した結果…
普段の商談よりもかなり長い時間がたっています。こちらからの提案の話に移りたいという気持ちを抑えながら、シェフの話のポイントをメモしていきます。しばらくして、シェフから思いもよらない一言。 「よし、じゃあ、頼んだよ。後のことはここの担当者と段取りを進めてくれるか。任せたからな」 「え、ありがとうございます。あのぉ……」 状況が理解できずに戸惑う私。 「あ、それからウチの会に出てみないか、いろんな業者が来ているから何かの足しになるかもしれんぞ」 「あ、ありがとうございます。それはどういった会なのでしょうか。私がお伺いしても大丈夫なのでしょうか」 何がなんだかわかりませんが、聞くしかありません。 「おお、いいぞ。協会の集まりなんだが、是非顔を出してくれ。フロントで日程を聞いといてくれ」 岡林シェフはそれだけ言い残して去っていきました。その場でわかったことはビヤガーデンの取引をしてくれることになったことと司厨士協会の集まりに参加できることになったという2つでした。
営業に必要なふたつのこと
後で調べてみてわかったのですが、司厨士協会は「西洋料理」を専門とした料理人の方々で構成されている全国的な組織でした。高知では岡林シェフが要職を務めており、ご自身が中心となって開催している集まりにはその後幾度も参加することになりました。 プロの調理師で構成されている組織なので、レストランやホテルや大きなアミューズメント施設の食を担っている方が名を連ねています。この会の人たちがその後の新規開拓の大きな力となったのです。 しばらくたってから、会の席で岡林シェフに思い切って聞いてみました。 「初めてお会いした時に、取引OKに加え、会合にまで参加させていただいたのはどうしてでしょうか。あの時、私は肝心な商品・機材の話をほとんどできないままでした。営業としては失格だったと思います」 それを聞いて、シェフは私に言いました。 「営業として失格だと。そんなことはない。いいか、我々調理師の仕事は料理を食べさせることではない。一生懸命つくった料理を食べていただいて喜んでもらうことだ。そのためにお客さんにとって何をすればいいのかを考えること、お客さんを知ることが大事。私のところにもいろいろな営業の人間がやってくるが、そのほとんどは自分たちの商品と条件がいかに良いかを並べるだけだ。こちらが望むことはやってくれるものではなく、やって欲しいものだ。 そのためにはお客さんであるこちらの話をしっかりと聴くことだ。君は私の話にずっと耳を傾けて、私が考えていることや、やりたいことをかたちにするためにはどうすればいいのかを一緒に考えてくれた。確かにびっくりするようなアイディアはなかったが、それが営業の人間にとっては一番大切な姿勢だ。しかも礼儀正しく言葉を選んで応えてくれた。これなら司厨士協会の集まりに来てもらってもいいかなと思って声を掛けた。礼儀正しくあることと人の話をきちんと聴くこと、この2つを軽んじるなよ」 初めてオリエントホテルで商談した時の私は、たまたま岡林シェフにそう映っただけかもしれません。私が思い切って聞かなければ気がつかないままだったかもしれません。この2つはその後の私の基本姿勢となり、多くの成果につながっていると思っています。 『コカ・コーラを日本一売った男が営業人生を振り返る...部門移動や挫折を経て辿り着いた営業マンの「極意」』へ続く
山岡 彰彦(株式会社アクセルレイト21 代表取締役社長)