「ラインズ―意識を流れに合わせる」(金沢21世紀美術館)レポート。世界の亀裂を縫い合わせるには? そのヒントを作品から感じ取る
各作家の「線」の引き方
美術館の入口(出口)ドアで新作《死の海》(2024)を発表するのは、ブラジル生まれのエンリケ・オリヴェイラ。作品の先端がドアにまとわりつくように展示された本作は、ブラジルの廃棄場にあった合板を組み合わせて構成されおり、作家が20年近く取り組むシリーズの新作。彫刻、絵画、建築といった領域を往還する作家のキャラクターがが反映されている。「本作は、函館で生け簀のタコを見た経験がインスピレーション源にあると思います。二次元的な表現、質感、触感への造り込みは私の作品の特徴です。表現が平面と立体を行ったり来たりしているのです」(オリヴェイラ)。 なお、本展のイメージヴィジュアルにも用いられている出品作、エル・アナツイの大型作品《パースペクティブス》(2015)も廃棄物が主に用いられており、遠くから見たときの迫力と間近で見た際のパッチワークのような手作業のギャップも両者に共通している。12mにもおよぶ《パースペクティブス》について「線が面に、面が立体になるという象徴的な作品」だと黒澤は話す。 画家の横山奈美は、作家の代表スタイルのひとつでもあるネオンをモチーフとした絵画《Shape of Your Words[In India 2023/ 8.1-8.19]》(2024)を出品。関わる人々に寄せ書きのように書いてもらった文字を業者がネオン制作し、横山が絵画として描くことで、人々の新たなポートレイトとなる。本作では、横山がインドで出会った人々が描いた「I am」の文字を作品化。「ネオンと言葉の構造が似ていると思ったのをきっかけにネオンを描き始めました。言葉は形があって意味が存在するがそれだけではなく、人の数だけ言葉の解釈は広がっていく、1本の線から枝分かれして無限に広がっているイメージ。そんなふうに私の作品を見てもらえると嬉しいです」(横山)。 「存在」とは何かをテーマに制作活動を展開し、近年では国立新美術館での個展も話題となった大巻伸嗣は、大陸を表す床の円盤とオブジェ、静かに動く振子からなる《Plateau 2024》(2024)を発表。中央に直立するオブジェは大和堆の上の空と海を、盤上を静かに動く振子には大和堆の大地(地形)を表した様々なデータにもとづく溝が刻まれており、大巻は「不確定な未来についての線の引き方を想像してほしい」と話す。作家が考える時間、空間、記憶などが折り重なる本作は、じっと眺めていると瞑想的な気分に誘われる。