いなば食品、大炎上も「ほぼ沈黙」の戦略的な是非とは。「沈黙は金」黙って耐えるのはもう通用しない?
その視点から言えば、現状公表されている3本のリリースでは、まだこの論点に向き合えているとは言えない。しかしその間にも、文春は二の矢、三の矢と、詳報を出し続けている。そこへ来ての「猫ネグレクト」疑惑は、かなり痛いものになるだろう。 これまでの報道は「いなば食品」が主語で、風評の意味では、子会社・いなばペットフードの防波堤になっていたため、人気商品「CIAOちゅ~る」のブランドイメージは、それなりに守られてきたように思える。
しかし、「猫ネグレクト」が報じられてもなお、沈黙を貫くようでは、缶詰に続く、同グループの基幹商品にも、多大な影響が出てしまいかねない。 ここ数年の企業スキャンダルを見ると、少しずつ傾向が変わりつつあるように感じられる。とくに中小企業では「社員が上層部に言いづらい空気」、つまり風通しの悪さが、現場の士気を下げ、経営層の権力を増し、コンプライアンス意識が低下する温床となった……そんな事案が、今まで以上に報じられている。
先日、伊藤忠グループのもとで「WECARS(ウィーカーズ)」として再出発が決まった、中古車販売大手のビッグモーター(BIGMOTOR)も、同族経営下における権力の集中が、保険金の不正請求などの遠因となったとされる。 故ジャニー喜多川氏の性加害をめぐる、旧ジャニーズ事務所の対応も、権力者におもねった結果として、現場の状況はさておき、「組織ぐるみの隠蔽」との印象を残した。こうした事案が相次ぐことで、権力集中に嫌悪感を抱く消費者も増えてきているはず。かつては沈黙で乗り切れたとしても、今はそうはいかないのだ。
加えて、いなば食品は、非上場企業だ。非上場のメリットとして、時たま「株主の動向に左右されにくく、自由が利きやすい」ことが挙げられるが、厳しい株主の不在がデメリットになる側面もある。具体的には、株価変動が起きにくいことだ。 もし上場していれば、消費者の空気を察して、市場は敏感に反応する。これは被害者となった企業の例だが、スシローが「迷惑客テロ」を受けた際には、時価総額として一時170億円近く下落した。