自衛隊海外派遣、靖国参拝、集団的自衛権の一部容認…外政家・高村正彦が語った日本外交の舞台裏(レビュー)
本書の冒頭で、政治の道に入った動機について「軍国主義が空想的平和主義になっちゃったから、真ん中の現実的平和主義に戻さなきゃいけない」と強調している。自伝の題名にもした「振り子」論である。 つまり真ん中を越えて今度は右に振れ過ぎることがあれば、止めにかかるということだ。高村氏の立ち位置は変わっていないのに、ときどきの政治状況に応じて「タカ派の論客」と呼ばれたり、「ハト派の三木武夫の弟子」にされたりするのである。 靖国神社への首相参拝に関する解説は、高村氏の「振り子」論の代表例である。いちばん問題なのは、中曽根康弘首相の靖国参拝を「戦争を美化し軍国主義を称揚する」と言い立てて中国の反日感情を刺激した野党の“告げ口外交”だと断じる。だが、その一方で「(東条英機元首相ら)戦争指導者の合祀がなかったらこの問題は起きていない」という現実も率直に認める。東条の方針に従わず、左遷された元内務官僚の父の血が流れているのだ。 「安倍さんが生きていたら分祀ができたかもしれない」。安倍氏の存命中に側近を通じて「分祀ができないか」との相談があり、日本遺族会の会長を務めた古賀誠氏との話し合いを仲介しようとしていたことも明かされる。高村氏が政界で担っていた役割が改めてよくわかる秘話だ。 イデオローグとしての安倍氏に心酔し、リアリストとしての安倍氏を理解できていない保守派の人々にこそ、本書を熟読してもらいたい。 [レビュアー]大石格(日本経済新聞編集委員) おおいし・いたる 協力:新潮社 新潮社 波 Book Bang編集部 新潮社
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