世界に「3つの核超大国」が立つ時代――核廃絶と核抑止の二者択一をどう超えるか
「核兵器のない世界」を「究極の目標」とした広島ビジョンへの批判はなぜ生まれるか[平和記念公園で原爆死没者慰霊碑への献花を終えたG7首脳=2023年5月19日](G7広島サミット公式HPより)
核による人類絶滅の恐怖と隣り合わせだった冷戦期は、核戦争に至ることなく終結した。しかし核兵器の脅威はそれで消滅したわけではなかった。核テロリズムが警戒されただけではなく、 北朝鮮 は核・ミサイル開発を着実に進めてきた。そして、2022年2月に勃発した ロシア・ウクライナ戦 争では、ロシアがしばしば 核恫喝 を行っており、世界は核兵器が使用されるリスクと改めて向き合っている。 世界では冷戦終結後わずか30年足らずで大国間の対立が再燃し、「大国間競争」の時代が到来している。その中で、核兵器を巡る安全保障環境も構造的な変化を遂げつつある。 中国 が大規模な核軍拡を進めつつあることで、冷戦以来の「2つの核超大国」の時代が「3つの核超大国」の時代へと変容しつつあるのである。この変化はどのような形で起こっているのか、世界で最も厳しい安全保障環境に置かれている日本はどう対応すべきなのか、本稿ではいくつかの論点を検討してみる。 今年の5月に開催されたG7広島サミットでは、ロシア・ウクライナ戦争もあって「核の影」が強まりつつある中、開催地が広島だったこともあり、核軍縮が1つのアジェンダとなっていた。そして5月19日には、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」(以下「広島ビジョン」)に合意した。広島ビジョンには、「我々は、全ての者にとっての安全が損なわれない形で、現実的で、実践的な、責任あるアプローチを通じて達成される、核兵器のない世界という究極の目標に向けた我々のコミットメントを再確認する。」との文言が盛り込まれ、「核兵器のない世界」が「究極の目標」であることをG7の首脳が確認するという成果を上げた。ただ同時に、これを成果と見なさず、広島ビジョンは、核兵器禁止条約に言及していないことや、核抑止力の現実を追認しているとして批判する向きもある。
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高橋杉雄