海外経験豊富な元日本代表→U-16日本代表監督に。2度U-17日本代表のコーチとして世界を経験した廣山望の"ポケット"という言葉の使い方とは
|ゴールに向かう選択を促すことが、結果的にポケットの攻略につながる
海外経験が豊富な元日本代表選手の廣山望が、今年からU-16日本代表の監督を務め、チームの強化と選手の発掘を着々と進めている。過去に2度、U-17日本代表のコーチとして、ワールドカップを経験し、アンダー世代の選手たちが身につけるべきものを認識している指揮官だ。その廣山監督に、ポケットという言葉の使い方を提示してもらう。加えて、守備を固めてくるチームと対峙した10月のU17アジアカップ予選において、相手を崩すために選手たちに意識させたことなども聞いた。 BBM sportsは2回に分け公開する。 【写真】 10月15日から29日まで、U17アジアカップ予選を戦ったU-16日本代表(Photo:松尾祐希) 取材・構成/松尾祐希 (引用:『サッカークリニック 2025年1月号』【特集】今こそ知りたい!「ポケット」の攻略法 PART6:アンダー世代の日本代表監督による解釈と対策より)
|ポケットへの進入が目的になってはいけない
―ポケットについて、どのように考えていますか? 廣山 U17アジアカップ予選を10月にカタールで戦いました。表に出せないデータではありますが、ポケット、サイドボックス、ボックス角の3カ所(図1)に関する数字が、毎試合出ています。 ポケットは、攻撃する上で、最も価値があるエリアです。ただし、ポケットの奪取はあくまでも結果でしかなく、そこに入っていくためにどうするかが大事。我々は、相手のディフェンスラインの背後をとること、つまり、ラインブレイクを重視しています。相手の背後をとりに行く思考が大事なんです。 日本代表が、9月のワールドカップ最終予選(3次予選)で中国戦(〇7-0)とバーレーン戦(〇5-0)を行ないましたが、2試合とも、相手の背後をかなりとっていました。ボール保持者がフリーになるたびに、南野拓実選手(モナコ=フランス)や上田綺世選手(フェイエノールト=オランダ)が、背後をとるアクションを起こしていましたし、サイドでは、三笘薫選手(ブライトン=イングランド)、伊東純也選手(スタッド・ランス=フランス)、堂安律選手(フライブルク=ドイツ)が、背後をうかがいながら、そこを何度も狙う状況をつくっていました。彼らのプレーが我々の教科書になったので、分析した上で、A代表の数字もU-16代表の選手たちに提示しました。 ―それが、U17アジアカップ予選に活かされたのですね。 廣山 アジアカップ予選では、あれを参考にして戦おうと話しました。そこで戦ったネパールとモンゴルは、特に守備に重きを置く相手だったので、ラインブレイクをしっかりと体現しなければいけませんでした。 予選前の8月に中国に遠征したのですが、3試合で3点しか取れませんでした。ベトナムとの最終戦は、先制されてから6バックで引かれたのですが、それをまったく崩せずに、0-1で負けたのです。 アジアカップ予選はその分析から始まったのですが、「3-4-2-1」の布陣だと、流動性がどうしても少なくなると感じていました。サイドまでボールを動かせても、前線のアクションがまったくなかったので、その数字や選手一人ひとりのアクションの数を出しました。 日本代表の同じポジションの選手を比較の対象にして、データを提示した上で、練習では、シャドーとボランチの選手がボールを引き出すようなアクションを求めました。その結果、相手のディフェンスラインを越えていくアクションやゴールに対する動きが多くなりました。アジアカップ予選では、ポケットへの進入回数が増えたと思います。 ―選手への伝え方が変わってきそうです。 廣山 そうなんです。ポケットへの入り方をどうするかという伝え方ではなく、「相手のラインを越えてゴールに向かう選手を増やそう」と言ったほうが良いかもしれません。 ―育成年代の選手にポケットという言葉を伝えると、それだけにフォーカスする可能性があります。 廣山 プロ選手の場合は、形をある程度決めることによって、迷いがなくなったり、動きを予測しやすくなったりすると思います。決めごとがあればあるほど、相手よりも早く正確にボールを送り込めるので、先手をとれます。もちろん、U-17年代についても、ワールドカップでは形が必要になると思いますが、基本的には、選手が下すその場の状況判断を優先しながら、まずはゴールを目指すべきでしょう。 ゴールを目指すためにアクションを起こすということを理解しなければいけません。アタッキングサードに入ったら、その点を特に意識するべきです。形を提示するケースもありますが、基本的にはゴールに向かう選択を促すことが、結果的にポケットの攻略につながるのではないでしょうか。