日経平均が好調、バブル最高値も“射程” それって本当?
連日の年初来高値で史上最高値のバブル超えも間近?――。一瞬、荒唐無稽にも思える話には、実は論拠があります。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストが、このカラクリについて解説します。キーワードは「配当」と「長期」です。 【グラフ】米中「部分合意」で日本株が大幅続伸 この勢いは本物か?
●あと20%くらいで「史上最高値」
10月下旬になり、日経平均は年初来高値を連日更新しています。背景にあるのは、前回の記事でも紹介したように(1)世界的にIT関連財の在庫調整が進展し、それに伴って製造業を中心に業績底打ち感が台頭したこと、そしてタイミング良く(2)米中貿易戦争に対する楽観論が芽生え始めたことです。 そうした中、日経平均株価が1989(平成元)年末につけた史上最高値に接近していることはほとんど知られていません。現在の日経平均は「3万6500円」近辺ですから、あと20%ぐらいで30年越しの最高値更新となります。 と、ジョーク混じりに書きましたが、決して嘘ではありません。3万6500円という数字に「ん?」と思った人もいるかもしれませんが、これは日経平均株価に配当金受取相当額を加えた「日経平均トータルリターン(配当込みの日経平均)」の金額です。その尺度でみた日経平均は、史上最高値(4万3200円)が射程圏内に入っているというわけです。 一般的に株式投資の損益を議論する際、配当を含まない株価水準がベンチマーク(基準)になります。ただし、投資家が直面する損益は、株価の変動に配当が加わりますから、特に年金運用や老後資金の資産形成といった長期運用では、配当込みの損益を重視する必要があります。したがって、5年や10年、あるいは30年、50年といった長期では配当を考慮した株価指数を参照することが適切です。 (※)…ちなみに、配当を含まない日経平均株価は2019年10月25日終値で2万2799円。史上最高値は1989年12月29日の3万8915円。
●「配当込み」と「配当なし」の長期推移
ここで、日経平均株価の長期データ推移を整理します。まず、私たちがニュースや新聞でよく目にする配当を含まない日経平均株価は、幾何平均でみた場合、収益率の伸びが1年あたりプラス3.1%になります(伸び率の平均を算出する場合は、年ごとの伸び率を足して割って単純平均する「算術平均」ではなく、この「幾何平均」を用いるのが一般的。いわゆる平均値を出す場合に用いられるのが算術平均)。これは1979年末の日経平均6569円と現在の株価2万2500円近辺を比較して算出した数値です。 それに対し、日経平均配当込みで計算した収益率はプラス4.4%になります。これは1979年末の日経平均6569円と現在の3万6500円近辺を比較して算出しました。つまり「配当の有無」で年あたり1.3%程度の差が生まれたことになります(配当なしの収益率プラス3.1%、配当込みの収益率プラス4.4%の差)。この間40年における日経平均株価の標準偏差が23%であることを踏まえると、1年あたり1.3%の収益率は小さいように思えますが、40年近く累積すると非常に大きな差となるわけです。これはグラフをみれば一目瞭然でしょう。 ここで「標準偏差」という言葉を解説なく使ってしまいましたが、標準偏差とは価格変動の大きさを表す数値です。数値が大きいほどブレ幅が大きいことを意味します。統計的にいえば、1年間の株価変動率が、プラス4.4%(収益率)を中心にして上下に23%(1標準偏差、マイナス18.6%~プラス27.4%)に収まる可能性は68%。プラス4.4%を中心にして上下に46%(2標準偏差、マイナス41.6%~プラス50.4%)に収まる可能性は95%となります。