「少子化対策」で人口減少は止まらない! 日本国民が"本来の目的"を誤解する理由
しかし、欧州と日本の少子化対策に大きな違いはないそうだ。 「あまり知られていませんが、日本の子育て支援は欧州各国と比較しても劣っているわけではありません。 育児休業制度だけ見ても、父親も母親も子供が1歳になるまで育休を取得できるなど、男女平等の意識が浸透している欧州よりも優れている点は多いです。 ほかにも、自治体によっては不妊治療の助成があったり、子供の医療費が無料だったり、近年急速に制度が整ってきました」 問題は、制度は整ってきているのに、人々の意識がいまだに変わっていないことだ。 「せっかくの育児休業制度なのに、うまく活用されていません。厚生労働省の調査によると、2021年に育休を取得した女性は85%だったのに対して、男性は14%だけ。 また、厚生労働省の調査では、『母親が育児に負担を感じる』『夫の育児頻度が少ない』という家庭ほど、第2子が持ちにくいとの結果が出ています。事実、日本は男女で家事・育児負担に大きな差があり、女性の家事関連の時間は男性の5倍以上ともいわれています。 ここにはさまざまな要因がありますが、最も大きいのは、少子化が『今を生きる自分たちの問題』だととらえられていないことにあるでしょう」 ほとんどの人にとって、人口減少は未来に起こる問題だ。「未来に起こる問題のために少子化対策が必要だ」と言われても、今の自分の生活と直結させて考えることは難しい。 「しかし、『結婚や出産など、希望する将来を自由に選択できない人が増えている。だから少子化対策が必要だ』と説明の仕方を変えればどうでしょう。非常にリアルな『今の問題』としてとらえられるようになるはずです。 また、これは少子化対策の範囲を広げることにもなります。経済的な問題が若者の結婚を妨げているなら、賃上げや雇用政策も少子化対策に含まれます。働き方改革も、女性の育児負担の軽減として少子化対策につながります。少子化対策には、本来これほど幅広い視野が必要なのです。 こうして自身が希望する将来を実現できる人が増えれば、個人の選択として結婚や出産を望む人も増えていくでしょう。遠回りかもしれませんが、それが最も現実的で効果的な少子化対策なのです」 少子化は「これから起こる危機」ではない。今を生きる私たちの問題なのだ。 ●茂木良平(Ryohei MOGI) 人口学博士・少子化研究者。スペイン、ポンペウ・ファブラ大学研究員、南デンマーク大学助教。オックスフォード大学社会学部研究員を経て現職。先進国の少子化問題をデータと統計を用いて分析している。自治体や企業と協働で少子化問題のEBPM(Evidence Based Policy Making)にも取り組んでいる 取材・文/小山田裕哉