トム・クルーズが乗った世界一有名なポルシェ「928」がオークションに登場! 映画『卒業白書』の劇中車は意外なほどリーズナブルだった!?
もともとはホワイトのボディカラーだった
ドライビングショットには3台の928が使用され、うち2台はイリノイ州ハイランドパークのダウンタウンを疾走する迫力満点のチェイスシーンに出演。今回のオークション出品車両は、クルーズがカメラを見つめ「ポルシェに代わるものはない」という有名なキャッチフレーズを宣言したラストショットを含む、多くの主要シーンでも登場した。 劇中車両を統括するディレクターだったジム・リッチオが、映画用の車両会社からレンタルしたこの928は、もともとホワイトの5速マニュアル仕様として仕上げられていたが、この作品のためにゴールドメタリックに塗り替えられた。そして、主に走行シーンとクローズアップ・ショットで使用され、とくにクライマックスのカーチェイスシーンでは、トム・クルーズ演じる主人公の操縦で、ポン引きのグイドが乗るキャデラック「クーペ ドヴィル」を出し抜き、抜き去ることに成功している。 くわえて、クルマ全体が映るワイドショットにも使われ、ポストプロダクションや編集で走行映像の隙間を埋めるためにも使われたことから、「フィル・カー」と呼ばれるようになった。 さらにこのポルシェ 928は映画における出演だけでなく、トム・クルーズがアクションスターとして世界に名を馳せるきっかけにも大きく関わっている。撮影が開始された段階では、トム・クルーズはまだマニュアル車の運転ができなかったため、プロデューサーのジョン・アヴネットが自らこのクルマとともに、シフトワークの手ほどきを行ったといわれているのだ。
ドキュメント映画の主役にもなった1台ながら……
『卒業白書』の制作とプロモーション活動に使用されたのち、このポルシェ 928はカリフォルニアに返却された。銀幕では有名となった928だが、当時は劇中車がプレミア扱いされる風習もなかったせいか、ただの中古車としてマーケットに放出されることになった。 そして、コロラド州デンバーに住むドキュメンタリー作家のルイス・ジョンセンによって再発見されるまで、この個体は再び白でリペイントされ、カリフォルニア州内で何人かのオーナーを経ていた。 ジョンセンは『卒業白書』に出演していたこの928に以前から憧れを抱き、映画のプロデューサーであるジョン・アヴネットとポール・ブリックマンをはじめとする関係者に取材を重ねていた。今回のオークションでも添付されていたという、シリアルナンバーが記載された制作資料を入念に調べ上げ、次にこの時期における928の生息状況を探したところ、カリフォルニア州カテドラル・シティに住む、当時のオーナーにたどり着いた。 こうして2000年代半ばに、「金に糸目をつけない」価格で購入されたというこの928はコロラド州に居を移し、そののちジョンセンは自身が制作を手がけたドキュメント映画『The Quest for the RB 928(Risky Business 928)』にて、その執念の探索を記録することになる。 ジョンセンが長年の野望を果たしたあと、928は同じアメリカでも東海岸のコレクションに譲渡され、現在も保管されている領収書が示すとおり、内外装とメカニズムに大幅な改修が施された。そして2021年に現オーナーが「バレット・ジャクソン・オークション」にて入手して以来3年間にわたり、空調管理されたガレージで大切に保管されてきたとのことである。