世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.114「佐々木歩夢くんへの妨害走行はカピロッシよりも悪質。でもね……」
「コイツは怖い」と思わせる
さて、カタールGPでのマシアとフェルナンデスはまったくの論外だったし、ヨーロッパ中心というGPの文化的な問題点も浮き彫りになりました。さらに僕が付け加えたいのは、歩夢くんにも問題があった、ということです。彼の「問題」。それは、カタールGPまで勝てなかったことです。 かなり厳しい意見になってしまいますが、カタールGPでの出来事は、そこまで歩夢くんが勝っていなかったからこそ招いた事態、とも言えます。問題を起こしたふたりを含めて、まわりのライバルたちはみんな「アユムは勝てないライダー」と思ってしまっていたんです。簡単に言えば、舐められていた。だから歩夢くんは周りにプレッシャーを掛けられていなかった。 これは非常に難しい、でも重要なポイントです。ライバルたちが「コイツは絶対に勝ちに来るぞ」と警戒していれば、それはプレッシャーとなって、ミスを誘うことができます。逆に「コイツは勝てない」と思われてしまうと、警戒されなくなり、周りはやりたい放題になってしまう。GPは本当に厳しい世界なので、「コイツは平気だ」と思われたら終わり。常に「コイツは怖い」と思わせないといけません。 これは実際にGPを戦った者でなければ分からないかもしれませんが、そういう精神戦というか高度な駆け引きが、レース中には常に繰り広げられているんです。歩夢くんは、その駆け引きに飲み込まれ、最悪の結果を招いてしまったわけです。 何度も言いますが、カタールGPでの歩夢くんは明らかに被害者でした。マシアもフェルナンデスも、場合によってはチームも、厳しく罰せられるべきです。でも、自分がなぜそういう仕打ちを受けたのか、なぜこういう事態に巻き込まれたのかを冷静に見極めなければ、次につながりません。 もっとも、歩夢くん自身「今シーズンはミスも多かった」とコメントしており、その辺りはかなり強く自覚しているようですね。そういう意味では、最終戦できっちりと勝ってから来季モト2にステップアップする「新生・佐々木歩夢」に、さらに期待しています。 >>>最終戦で今季初勝利を挙げた佐々木歩夢選手。