世界の名建築を訪ねて。「2022 FIFAワールドカップ」のメイン舞台、金色の「ルサイル・スタジアム」/カタール・ルサイル市
世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載19回目。今回は、カタールのルサイル市にある、「FIFAワールドカップ・カタール2022」のメイン舞台となった巨大スタジアム「ルサイル・スタジアム(Lusail Stadium)」(設計:フォスター・アンド・パートナーズ)を紹介する。
ワールド・クラスの巨大サッカー・スタジアム「ルサイル・スタジアム(Lusail Stadium)」
最近でもサッカーの試合を見ると、「FIFAワールドカップ・カタール2022」の興奮が、しばしば蘇って来ることがあるのは、だれもが体験しているのではないだろうか。あの試合で、日本でもサッカー・ファンがかなり増えたのは間違いないのではないか。 さて「FIFAワールドカップ・カタール2022」において、中心的な会場となった「ルサイル・スタジアム」は、イギリスのフォスター・アンド・パートナーズの設計による、観客8万人を収容できる延床面積約92万5,000m2のワールド・クラスのサッカー・スタジアムであり、2022年に完成した。 世界で30億人以上の観客を動員するといわれている、4年に1度の大スポーツ・イベントであるワールドカップは、開催地に根ざした創造性と革新性を表現し、世界に知らしめる重要なチャンスなのである。会場のあるルサイル市はカタールの計画都市として開発されたもので、現在50万人都市を目指して拡大してきた。 「ルサイル・スタジアム」は「FIFAワールドカップ・カタール2022」においてだけでなく、ルサイル市においても中心的な存在として構想されたものであった。つまり一時的な「FIFAワールドカップ・カタール2022」のみならず、この都市の将来においても重要な役割を果たす記念的な存在なのだ。カタールにおける気候風土や、文化的レガシーへの理解や、クライアントからの要望に対する緻密な分析を通したデザインが基礎となって生まれた。
光り輝く「金色の器」
このスタジアムは、太陽光を受けて輝く「ゴールデン・ヴェッセル(金色の器)」として形容される特徴をもつ建築である。ファサード表面上にデザインされた三角形の開口部が内部のコンコースに日陰をつくり、光を遮るスクリーンとして機能している。ファサード・デザイン、革新的な屋根デザイン、さらに高度な外気冷却技術により、エネルギー消費量を削減しつつオープン・エアーのスタジアムの快適性を高めているのが特徴である。 巨大な直径の「スポーク・ホイール型」ケーブル・ネット屋根は、スタジアム建築においては世界最大の引張式ケーブル・ネット・ルーフを持つ単独建築物であり、フォスター・アンド・パートナーズの技術集約的なデザインによって可能になった建築である。それは居心地の良い環境を生み出すと共に、スタジアム全体をひとつの大きな容器に統一したデザインで可能になったのである。外部の圧縮リングは、複雑なケーブル・システムによって、中央にある張力リングに接続されている。この方式だと巨大な屋根全体を、無柱の大空間で支持することができるというメリットがある。
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