ホークス一筋25年、チームを支えるベテラン打撃投手が明かす“打ちやすいボール”とは? 試合前のバッティング練習の本当の目的
試合前のバッティング練習の目的はズレの修正
ほとんどのバッターは、打撃投手にコースの指定やリクエストはしませんが、できれば同じコースに投げ続けてほしいのだろうというのは感じます。その理由は、バッターの状態を確認して調整するためには、一定のボールのほうがやりやすいからです。 先に「規格」どおりの球を投げ続けるという言い方をしたことに通じますが、重要なところなので説明を加えます。 試合前のバッティング練習は、限られた時間で自分のイメージと実際の体の動きにズレがないかをチェックして、もしあった場合はそれを調整するのが目的です。 バッターは過去の経験則から、目で見た情報をもとにバットとボールが当たる瞬間を予測し、その予測のとおりにバットを振ります。ところが、人間は機械ではないので、必ずしもそのイメージどおりに体が動くとは限りません。いつもと同じバッティングフォームのつもりでも、思ったとおりのスイング軌道になっていないということが日常的に起きます。 打撃投手が投げる球を打ちながら、そのイメージと現実のズレ、あるいは感覚と動作のズレといったものを埋めていく作業を試合前のバッティング練習で行っているのです。
やりたいことをやってもらう
プロのバッターは、よほどの不調期でない限り、感覚と動作の修正はすぐにできます。あとは調子の良し悪しを確かめるために、やりたいことをやってもらうこと、別の言い方をすれば、気持ちよく打ってもらうことが大事です。 そうならば、打撃投手が投げるべき「一定の場所」は、バッターが打ちやすそうにしている場所ということになります。 私の場合は、その「一定の場所」がどこなのか、打者の打ち方や反応を見ながら決めています。他の打撃投手がどうしているのかはわかりませんが、バッティング練習自体で打撃投手とバッターとでコミュニケーションを取っているという感じはあります。 一流のバッターになればなるほど、バッティング練習ではひとりの世界に入り込んでいますので、こちらとしてはより集中力を高められるように、邪魔をしないようにと気を使うところもあります。「一定の場所」としてどこを狙って投げるのがいいか、バッターの様子から感じ取ることも打撃投手の仕事のひとつだと思います。
---------- 濱涯泰司(はまぎわ やすじ) 1970年10月3日生まれ。鹿児島県出身。鹿児島商工高等学校(現・樟南高等学校)、九州国際大学を経て1992年ドラフト3位で福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)に入団。1999年に引退後、打撃投手へ転身。以後、25年間にわたり投げ続け、裏方からチームを支える。 ----------
濱涯泰司