名前が話題の台湾野球選手、本来の読み方に想い
困惑気味になった記者は「もっと簡単な呼び方はないか」と聞いた。その質問を受けて、ギリギラウ選手は一瞬、眉をひそめてから、「ギラウ(giljaw)でもいいです」と答えた。 ただ、「ギラウ」は親しい友人や家族が呼ぶ名前で、本来は公式の場で用いるべき呼称ではない。つまり、台湾メディアの記者ですらギリギラウ選手の名前の正しい発音を視聴者に紹介するより「長い、珍しい、読みにくい名前」をネタとして扱っているとしか見えないやりとりだった。
ギリギラウ選手は、社会の壁に毅然と立ち向かっている。2012年からアメリカでプレーしていた際には、2019年にマイナーリーグでの登録名を「giljegiljaw kungkuan」に変更。アメリカでプレーした台湾原住民族選手の中で、初めて伝統名で登録したのはギリギラウ選手である。 そして2021年に台湾に帰国し、台湾プロ野球史上初の伝統名で登録する選手となった。台湾のプロ野球チームでの入団式では「(当て字である)漢字で登録しているが、パイワン語の発音で私を呼んでください」とファンにお願いしていた。
2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)予選でホームランを放って活躍した際に、台湾メディアも今回の日本社会と同様に「珍しい名前」、「読み方に困惑」と取り上げた。報道に対して、ギリギラウ選手の父親は「中国語の当て字ではなく、パイワン語で息子の名前を呼んでほしい。ギリギラウ・コンクアンは美しい名前ではないか、ぜひ母語で読んでほしい。いつもメディアの皆様にそうお願いしている」と訴えた。
ギリギラウ選手は決してひとりぼっちではない。彼が所属する台湾の味全ドラゴンズのチームメートの中にも、Villian Isnangkuan(ヴィリャン イスナンクァン)選手やMasegesege Abalrini(マスグスグ アバレイニ)選手、Namoh Iyang(ナモー イヤン)選手など、伝統名でプレーする原住民族選手は増えている。ありのままの伝統名を背負ってプレーする選手たちの姿は、多くの原住民族に勇気と誇りをもたらしているだろう。
許 仁碩 :北海道大学メディア・コミュニケーション研究院助教