日本版DBS創設に危惧 子どもを性犯罪から守ることに異論はないが、問題は山積みだ
一般に〈性犯罪の再犯率は高い〉と思われている。しかし何かの犯罪で検挙等された者が、その後再び犯罪を行うリスクがどの程度かは、前提条件を細かく設定する必要がある。 第一に、「再犯」とは、検挙されたことなのか、有罪判決を受けたことなのか、それとも刑務所に収容されたことなのか。どれを基準にするかで数字は異なる。 第二に、初犯と累犯とでは、犯罪傾向の強弱が異なるので、どの集団を調べるかでも数字は異なる。 第三に、調査期間の長短によっても再犯率の数字は増減するし、その間、センセーショナルな性犯罪が起きておらず、条文や取り締まり方針にも大きな変化がなかったことが必要である。 要するに再犯率は、このような条件設定を細かく行う必要があるので、そのデータは取られていないのである。 ただし、法務省が出している「令和四年版 再犯防止推進白書」ではつぎのような記述が見られる。 「性犯罪の2年以内の再入率は2020年(令和2年)出所者で5.0%となっており、出所者全体(15.1%)と比べると、再犯率が高いとまではいえない」 (「令和四年版 再犯防止推進白書」の全体版) ここで言う「再入率」とは、刑務所を出所した者が再び刑務所に戻る率のことであり、いわゆる再犯率に比較的近い数字と言える。「性犯罪」とは強制性交等・強姦・強制わいせつ[いずれも同致死傷を含む]のことだ。白書に記載されたとおり、「性犯罪の再犯率が高い」と言われているのはまぼろしだ。結局、客観的なエビデンスを欠いた発想が問題なのである。
効果は疑わしいが、副作用は甚大
示談などによる不起訴事案や少年時代の性犯罪などは前科記録の対象外であり、圧倒的大多数の「初犯」も前科がないので、DBSはこれらについてはそもそも無力である。初犯か再犯かに関わらず、性犯罪そのものの対策を講じるべきである。 しかし何よりも懸念されるのは、DBSが拡大されるだろうということだ。 学習塾やスポーツクラブなどに対してDBSは義務ではなく、任意の認定制度が適用されるが、「認定」はビジネスの競争上、当然に有利になるので事実上の強制となる。 また、子どもと密に接する職域であれば、DBSを教育や保育の現場に限定する理由も乏しい。すぐに思いつくものとしては、小児科医や産婦人科医、そこで働く看護師や職員などは、就業時はもとより定期的に性犯罪歴のチェックを受けることになるだろう。 さらに議論になっていないが、次のような問題もある。 法案における「児童」とは、18歳未満の者すべてである。学校等に通っているか否かは関係ない(法第2条1項)。一般に「児童」といえば、多くの人は小学生や幼稚園児などを思い浮かべると思うが、中学生や高校生、あるいは義務教育を終えて働いている18歳未満の者も「児童」である。 政府答弁では、子ども(児童)との密接な人間関係について「継続性」があり、指導など優越的立場の「支配性」、さらに他者の目に触れにくい「閉鎖性」の3要件があれば、性犯罪歴を確認する要件になるとのことである。 するといずれは、高校生をアルバイトとして雇っているコンビニやスーパー、書店、飲食店などのオーナーや従業員にも性犯罪歴の定期的なチェックが問題となるだろう。 こうしてDBSは、社会の広い範囲にじわじわと広がっていく。