伊藤英明 親になって事務所社長の愛を改めて実感した
当時の事務所、大変だったと思うんです。そんなに世に出ているタレントもいないし、そんな中、マネジャーの給料も払わないといけない。さらに、僕も仕事なんてなかったのに、毎月決まった給料をくれてたんです。というのも、若いですし、アルバイトにのめりこんだりしたら、性格的にそっちにハマっていっちゃうこともある。それを明男さんは分かってくれていて、アルバイトをしないでいいように最初から給料を払ってくれていたんです。 そんな弱音は口が裂けても言わない人なんですけど、周りから聞いてみると、絶対に事務所も金銭的に楽な状況ではなかった。それでも、給料が遅れることは一回もありませんでした。 恩着せがましくしてあげるんじゃなく、なんなら、してもらっているということを相手に感じさせない。人の痛みをくんで、自分の痛みは見せない。そういう人間に、自分もなりたいです。 この仕事をしていたら「あの仕事がなかったら、次もなかった」と思えるようなターニングポイントって、たくさんあります。ただ、その中でも今は40代に入って、結婚して、子どももできて、とりわけターニングポイントに差し掛かっているなと。 自分でもこんなに大きな動きがあるとは思ってなかったんですけどね(笑)。結婚に対しても何とも思ってなかったですし、妹に3人子供がいるんで子どももそれで十分かなと思ってたんですけど、やってみると大きく変わると言いますか。
子どもができて改めて思ったのが、自分もこうやって明男さんから愛情を受けていたんだなということ。まだ親になって数ヵ月、結婚して、1~2年しか経ってないんですけど、そこのありがたさを痛感しています。 例えば、心配って皆なするじゃないですか。誰でも持っている感情。でも、こちらが心配していることが相手に伝わると、相手にとってはそれが意外とストレスだったりもする。勝手な話なんですけど、鬱陶(うっとう)しく思ったり、反発したり。当然、明男さんも僕に対して、心配をしていたんだと思うんです。でも、僕に対してはそれを出さない。出さないように努めるというのも愛情だと思いますし。それをサラッとしてくださっていたであろうことを息子を通じて、また気づかされました。 恩返しですか…。今の関係性で言うと、見てくださっている方が楽しんでくださったり、感動してくださったりする作品になるよう、自分が真剣に取り組むこと。これが、明男さんへの恩返しにもなると思っています。あと、そんな話、明男さんは言わないでしょうけど、もし、もし、あの人が本当に困ったら全てを投げ出して、何も言わず駆けつける。ずっと、その思いを持っていることでしょうね。 ■伊藤英明(いとう・ひであき) 1975年8月3日生まれ。岐阜県出身。93年に「第6回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で準グランプリを受賞したことをきっかけに芸能界入り。「海猿」シリーズで映画・ドラマとも主演を務め、話題を呼ぶ。映画「テラフォーマーズ」では主役・小町小吉を演じている。フジテレビ系ドラマ「僕のヤバイ妻」にも主演。2014年に一般女性と結婚。翌年、長男が誕生する。 ■中西正男(なかにし・まさお) 1974年大阪府枚方市生まれ。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当記者として、演芸、宝塚歌劇団などを取材。2012年に退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属。現在、関西の人気番組「おはよう朝日です」などに出演中。