「ホンダ+日産=世界3位」素直に喜べない理由は? パワー半導体をめぐる“次の競争”
ホンハイが日産買収に動いたワケ
そもそもホンハイは、iPhoneの受託生産で成長を遂げたEMS(電子機器受託製造サービス)の世界的企業だ。しかし、近年は成長の柱だったiPhone組み立て事業の売り上げ高伸び率が鈍化していた。そこで次なる成長エンジンとして注力しているのが、EVのCDMS(Contract Design and Manufacturing Service:受託設計・製造サービス)である。 専門家の中には、ホンハイのビジネスパートナーである米エヌビディアが目指す「AIによるものづくり」に日産のEV生産インフラを活用したい狙いもあるのでは、と見る人もいる。だが、ひとことで「EV生産」といっても、われわれが一般的にイメージするそれとはやや異なっている。 例えば、ホンハイは2019年にEV事業に参入しているが、自社ブランドでEVを出していない。ベースとなるEVを開発して、顧客である自動車メーカーなどの意向を受けて、カスタマイズしたものを設計・生産しているのである。 そこでホンハイの強みとなっているのが「低コスト」と「スピード」。これを実現しているのが、EV開発コンソーシアム「MIH」(モビリティ・イン・ハーモニー)だ。 これは2021年3月に設立されたもので、世界中の部品メーカーやソフトウェア企業など2700社以上(2023年11月時点)が参画している。各社の技術を持ち寄って協働することで、内製化する企業と比べて圧倒的なスピードやコストダウンを実現している。いわゆる「オープンプラットフォーム」と呼ばれる仕組みだ。 ホンハイはそんな「水平分業型EV開発」を進めているわけだが、一つだけ垂直統合、つまり「自前」にこだわっているところがある。SiCパワー半導体だ。
なぜ「日の丸パワー半導体」が打撃を受けるのか
ホンハイはMIH設立から5カ月後、台湾の半導体企業から工場を買収して、SiCパワー半導体の量産に乗り出している。さらに注目すべきは、そこで「最強」のパートナーと手を組み始めたことだ。 そう、パワー半導体の巨人、インフィニオン・テクノロジーズである。 2023年5月、両社はEV向けシステムの共同開発に関する基本合意書を締結。そこにはSiCパワー半導体を用いた省エネルギー車載機器の開発などで協力する内容も含まれている。また、同時期には半導体設計会社「PowerX」を立ち上げ、2025年中にはSiCを用いた車載モジュールを製品化していく、と表明している。 さて、ここまで説明すれば、なぜホンハイが日産を買収すると、「日の丸パワー半導体」が打撃を受けるのかが分かっていただけただろう。 もしホンハイが日産を傘下に組み込んで、どういう形にしろEV開発が進んでいくということは、そこに組み込まれるのはホンハイのSiCパワー半導体であることは間違いない。 ブランド力が低下しているとはいえ、世界販売台数344万台(2023年度実績)規模の自動車メーカーのサプライヤーになれば、ホンハイのパワー半導体事業は急成長していく。その恩恵は共同開発パートナーであるインフィニオンにももたらされるはずだ。 今でさえ「巨人」の背中に遠く及ばない日本のパワー半導体が、さらに引き離されてしまうのは容易に想像できよう。