「ホンダ+日産=世界3位」素直に喜べない理由は? パワー半導体をめぐる“次の競争”
経産省の本当の狙いは
ただ、実は経産省のエリートたちが「ホンハイ買収阻止」を応援しているのは、「対中国」だけではない。日産を奪われてしまうと、日本はある分野での戦いで、「惨敗」を喫する恐れがあるからだ。 その分野とは「パワー半導体」だ。 「産業のコメ」といわれる半導体の中でも、ロボットやドローン、EVなどになくてはならないパワー半導体はこれから急成長確実な分野で、世界はここの覇権を握るために熾烈(しれつ)な争いをしている。 英国の調査会社オムディアによると、2023年におけるパワー半導体の世界シェア1位はドイツのインフィニオン・テクノロジーズ(Infineon Technologies)、2位が米国のオン・セミコンダクター(ON Semiconductor)、3位がスイスのSTマイクロエレクトロニクス(STMicroelectronics)である。 中でも特筆すべきは「パワー半導体の巨人」と呼ばれるインフィニオン・テクノロジーズだ。2位のオン・セミコンダクターの2倍以上となる圧倒的なシェアを誇っており、世界各国の自動車メーカーにパワー半導体やチップを供給している。2024年2月にはホンダとも戦略提携を締結した。 われらが「日の丸半導体」はどうかというと、4位に三菱電機、5位に富士電機、8位にローム、9位に東芝となっている。 「トップ10の中に4社も入っているなんて、スゴいじゃないか」と思うかもしれないが、なかなか微妙なのはこの4社を全てまとめても、1位のインフィニオン・テクノロジーズのシェアに届かない。「巨人」の背中さえ見えない状況なのだ。
パワー半導体に多額の補助
とはいえ、先ほども触れたように、これからの時代、パワー半導体を自国で生産できない国の先行きは暗い。そこで「経済安全保障」を掲げる経産省がテコ入れに動いている。 例えば2023年12月、東芝とロームがパワー半導体を共同生産すると発表した際に、経産省は両社の事業総額3883億円の中で最大1294億円を補助した。 11月29日にも半導体企業などに最大1017億円を助成すると発表したが、中でも突出して多かったのは、デンソーと富士電機のSiC(炭化ケイ素)パワー半導体関連の最大705億円だった。 さらに日本政府は、これらの企業に「連携」を呼びかけている。各社シェアが小さいので、束にならなければ、パワー半導体の巨人であるインフィニオンの背中すら追いつけないからだ。 このように官民一体となって、パワー半導体競争を勝ち抜こうとしているわけだが、そこに大きな脅威となっているのが「ホンハイの日産買収」だ。 一見すると、全く関係のないこの2つは、実はかなり深く関わっている。順を追って説明していこう。