【日下部保雄の悠悠閑閑】立山黒部アルペンルート
前に友人が話してくれた「立山黒部アルペンルート」は、聞いているだけで雄大な北アルプスと黒部の清涼な空気が伝わってくるようで、行きたい願望は膨らむばかり。 【この記事に関する別の画像を見る】 夏の暑い盛りにぼんやりと立山を思い浮かべていたとき、旅案内の立山-黒部という文字に惹きつけられすぐにクリック。 久しぶりのツアー旅行は交通手段や宿の心配をせず、旅の行程も経由地に行きつかずにがっかりすることもない。このところのオーバーツーリズムでどこも満杯なだけにツアーに乗っかることに躊躇はなかった。 まずは北陸新幹線「あさま」で上田。そこから善光寺経由で富山へ。この夜は自由行動だったので旬のカニを前にして沈黙の食事が進んでいく。 翌日は立山駅までツアーバス。そこからは大型の「立山ケーブルカー」で急勾配を約7分上ると美女平に到着。そこには「立山高原バス」が待っており50分の山岳ドライブ。ゴールデンウィークのころ、20mはあろうかと思われる雪の壁に挟まれて走るバスの写真を見たことがあると思うが、あの道だ。今は高い山に遅い雪が残るだけで、雪の壁は想像すらできなかった。雪の回廊は走るのはどんな感動があるのだろう。 終点の室堂平からは立山の険しい山肌がすぐそこに見える。圧倒的な存在感、重量感は近寄りがたく、凡人はただただ見とれるばかり。期待に背かず素晴らしい景観! 来た甲斐があった。 この日は好天で風もなく暖かかったが、数日前は氷点下だったという。山の天気は変わりやすい。遠く北を見ると富山市と富山湾。日本海側からの水をタップリ含んだ雲が北アルプスの北面で大量に雪をもたらすのが手に取るように分かる。 室堂平ではみくりが池を1周する散策ルートを歩いてみた。日差しも強く、登山者の中には半袖の人もいる。サングラスはマストだ。散策といっても公園のまわりを歩くようにはいかない。雪の中、足下に注視しながら歩くのはボクにとっては登山だ。日頃の運動不足がこたえる。 おまけにのんびりしていたら集合時間に間に合わなくなりそうで慌てたおかげで死ぬかと思った。酸素の薄い高山をなめてはいけないのです。 まだ動悸がするような気分の中「立山トンネルトロリーバス」に乗り、室堂から大観峰までの約10分を走る。立山連峰を貫通する長い黒部トンネルのトロリーバスは黒部の名物だったが今年で長い歴史に幕を閉じる。架線から電気を取るため分類上は鉄道になる稀有な存在は日本からなくなる。今後はEVバスに切り替わることになるだろう。長い間ご苦労さまでした。 大観峰から黒部平までは支柱のない「立山ロープウェイ」で約7分。支柱のないロープウェイは何だか足下がくすぐったいが、この深い渓谷に支柱を立てるのが無理なのは一目瞭然。 さらに「黒部ケーブルカー」で黒部湖にたどり着いた。急峻な立山にケーブルカーは最適な乗り物だ。 黒部湖ではこちらも55年の歴史に幕を閉じる「黒部湖遊覧船ガルベ」で静かな黒部と深まる秋を満喫する……予定だったが、甲板は立錐の余地もないほどで隙間から山岳地帯をのぞくのがせいぜいだった。 ガルベ号はこの乗船がまさに最終便。これ以降廃止になる。黒部ダムのマスコットキャラクターのくろにょんもお別れに元気なく、涙で曇っているのか呆然としている。それとも、前が見えなかっただけかもしれない……。 大自然の急峻な景色に、よくここに巨大ダムを造ろうと思ったものだ。1956年着工とあるから58年前のことで、高度成長期に入ろうとしていた時代のバイタリティを感じる。開業は1963年最初の東京オリンピックの前年で日本はお祭り騒ぎだった。 黒部湖で遊んだあとは黒部ダムから扇沢までを「関電トンネル電気バス」が運行している。こちらはこの日の最終便。最新のBEVバスはルート運航で、何しろダムのそばを走っているので電欠の心配はなさそうだ。16分間の最新BEVバスは振動も排出ガスもなく快適でした。 ここからまたツアーバスに乗って白馬で1泊。翌日は松本城に寄ってから「あずさ」2号ではなく34号で新宿まで帰った。それにしてもツアーバスのドライバーはうまいなぁ。絶妙なブレーキと加速のタイミング、半端ない車幅感覚とコーナーのロールコントロール。見習わなければなりません。 充実した3日間だったが立山のハイキングと松本城の階段でゼイゼイしたせいか、翌日から鼻かぜが止まらなくなった。ナサケナイ……。
Car Watch,日下部保雄