天然ガスは石炭より「汚い」? 米コーネル大学教授の論文が物議
ハワース論文の問題点と反論
■ハワース教授の仮説 ハワース教授は論文の中で、LNGを生産・液化・輸送する過程でメタンが排出されることから、LNGは石炭に比べて二酸化炭素排出量が少ないという利点は相殺されると論じた。この論文の影響で、米国のジョー・バイデン政権は、LNG輸出ターミナル新設の承認を一時的に見送る決定をした。ただし、同教授の仮説には議論の余地がないわけではない。なぜなら、以下のように仮定されているからだ。 ・メタンの漏出率が米環境保護局(EPA)の推定より大幅に高い ・メタンの漏出が検出され、修繕されても漏出率は低下しない ・期間が20年間に限定されており、長期的には次第に減少するメタンの影響が誇張されている つまり、ハワース教授は最悪の条件をいくつも仮定した上で結論を導き出しているのだ。 ■ハワース論文に対する反論 ハワース教授の論文を巡っては、米共和党が調査に欠陥があると批判し、石油・ガス業界が方法論に異議を唱えるなど、反論も巻き起こっている。米石油協会(API)をはじめとする業界団体は、ハワース教授の論文は最悪の条件を想定したものであり、2019年の米政府委託研究など、過去の研究と矛盾していると指摘した。先行研究では、燃料のライフサイクル全体を考慮すれば、欧州やアジアの発電に米国産LNGを使用しても温室効果ガス排出量の増加にはつながらないと結論づけられていた。 また、ハワース教授が長年にわたり、シェールオイル・ガスの採掘に用いられる技術「フラッキング(水圧破砕法)」に反対してきたことにも留意すべきだろう。同教授の研究は、反フラッキングの研究や活動を支援している米環境保護団体「パーク財団」から資金提供を受けているのだ。これは、同教授が論文の中で最悪の条件を仮定した理由を示唆している。 ■結論 結局、LNGは石炭より汚いのだろうか? 恐らくそうではないだろう。ハワース教授の論文によって、この議論に再び火がついたが、同教授が導き出した結論は先行研究とは矛盾している。この論文は米政府の政策論議に影響を与えたが、同教授の研究結果の背後にある仮説や資金の流れを考慮することが重要だ。 この問題を巡る論争は、各種エネルギー源が環境に及ぼす影響を評価することの難しさを浮き彫りにしている。信頼の置けるエネルギー政策を策定するには、指針となる客観的な研究が必要だ。
Robert Rapier