予想外の大差否決 英国は「合意なき離脱」に突き進むのか
英国と欧州連合(EU)の離脱合意案が英下院で否決されました。英国は「合意なき離脱」に突き進んでしまうのか。市場も注視する離脱協議の今後の見通しについて、第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
離脱交渉期限が延長される公算高い?
英国のEU離脱の協議期限が3月29日に迫る中、英国下院はメイ首相が提示したEU離脱案を反対432、賛成202で否決しました。EU離脱をめぐっては英国内で「(EUとの)話し合いの余地はほとんどない。EUからきれいさっぱり離脱」という強硬離脱派、「EUと話し合いを続け、合意を得た上で離脱」という穏健離脱派、再度の国民投票を実施し「EUに留まる」という残留派が混在しています。そのため意見が集約されず、EUとの交渉が迷走しています。また、EU側も英国に妥協しない姿勢を崩しておらず、この期に及んで離脱協議は着地点が見えていません。 しかしながら、今回の否決である意味、一つの道筋が見えました。それは以下に示した(1)の可能性が低下したため、(2)の可能性が高まったということです。(3)については、さすがに経済に与えるショックが大きいとの見方が英国内でも共有されており、依然として実現可能性は低いと考えられます。 (1)3月29日までに交渉がまとまる「合意あり離脱」 (2)離脱協議期限の延長 (3)3月29日までに交渉がまとまらない「合意なき離脱」 今回のポイントは、反対票が予想外に多かったことです。事前予測では100票差程度との声があったのですが、実際は230票も反対票が上回りました。この反対票数を見る限り英国内での合意形成は難しく、EUとの協議もまとまる可能性が低いと考えざるを得ません。また事前の報道によると、EU当局者が「60票以内の差であれば、(EUが英国に提示する)妥協案を検討する可能性がある」との考えを示していたようですが、230票も差があれば、もはやEU側としては妥協案を模索する余地はほとんどないでしょう。したがって、(1)の可能性は低下したと考えるのが自然です。 こうして考えると、やはり3月29日とされる離脱交渉期限が延長される公算が大きいと考えられます。協議延長で根本的な解決に至るかは不明確ですが、「合意なし離脱」を回避できるという点においてセカンドベストな選択肢です。市場参加者が望む展開は、もはや「離脱協議の合意」ではなく「合意なき離脱の回避」ですから、“時間稼ぎ”や“問題の先送り”だったとしても、まずまずの結果として受け止めるでしょう。 したがって、目先的には離脱協議の延長が認められるかがポイントになりそうです。協議延長は、英国がEUに要請し、EU側が承認すれば認められますが、無条件に認めるのではなく、英国がEUに予算(加盟国は支払い義務あり)を拠出することが求められると予想されています。英国は難色を示すと思われますが、さすがに「合意なき離脱」を回避するためにEU側の要求に応じると思われます。市場参加者は、この協議の行方に注目するでしょう。