西岡良仁がツアー3度目の優勝!「色んな経験を積んできたなかで良い結果を出せたと思う」と自身の成長を実感<SMASH>
果たして、予想より早く成果は実った。ウインブルドン前哨戦のイーストボーン国際で、予選を勝ち上がりベスト8。ウインブルドンでも初戦で50位のヌーノ・ボルジェスに快勝。苦手意識を抱いていた芝で結果を出し、「ハードコートでもこの打ち方でトライしよう」と明るい予感を胸に灯して、彼は北米シリーズへと向かっていた。 アトランタのホテルにチェックインした時、「8年前と同じホテルだな」と、西岡は20歳の日を懐かしく思い出したという。当時は、兄でコーチの西岡靖雄と共にツアーを転戦していた。ランキングは100位前後で、「ATPツアーとはどういうレベルなのかを、やっと知り始めた」時分。そしてあの時この大会で、西岡はベスト4へと勝ち上がった。若さゆえの我武者羅が既存の壁を突破していく、特権的年ごろでもあったろう。 それから、8年の年月を経た今年――。西岡はブレることのない己のテニスの枢軸に、進化させた技を携え、次々に勝利をつかみ取った。3回戦では、母国開催のツアーで結果を出すべくオリンピックを欠場したフランシス・ティアフォーをストレートで打ち破る。アーサー・リンダークネッシュとの準決勝では、相手に傾きかけた流れをせき止め、フルセットの熱戦を競り勝った。 そして決勝戦のジョーダン・トンプソン戦では、降雨による5時間の中断を挟む難しい状況下でも、心身を制御し4-6、7-6(2)、6-2の逆転勝利をもぎ取った。 「ここまで長い待機の決勝戦は経験したことなくて、正直に言うと、どう対策したらいいのか全くわからなかった」 それが西岡の、偽らざる思い。それでも彼は、こうも続ける。 「テニス選手としては、こういうどうなるかわからないシチュエーションの中でもフィックスする能力が、とても大切になってくる。こういうことをできるようになったのは、本当に自分が歳を取ったんだなと思いました。それは、良いことにも悪い風にも取れるけれど、今日に関しては、ツアーで色んな経験を積んできたなかで、良い結果を出せたんだなと思います」 初めてこの大会に出場した20歳の日に、世界の97位だった彼は、8年後の今、50位としてアトランタを去る。その積み重ねた年月に思いを馳せ、西岡は言った。 「ツアーを長く経験して、今ではベテランという枠組みの中で、こうやってチャンピオンになれた。ツアーで3つ目のタイトルを取れたことと、この大会の最後のチャンピオンになれたことを、本当に誇りに思います」――と。 取材・文●内田暁