古民家ゲストハウスでスローライフを体感しに来日する外国人たち
地方での自然体験を楽しみに来日する外国人が激増中。彼らがわざわざ足を延ばす理由と遊びのスタイルをご紹介。今回は九州の古民家ゲストハウスにやってきた外国人グループを取材した。 日本の魅力再発見! Part1 インバウンド激増のアウトドアスポット潜入レポート 【写真16枚】台所には竈が備わり、機会があれば羽釜でご飯を炊く体験もできる。ここでしかできないニッポンを体験をリクエストもできる、福岡県・八女市の古民家ゲストハウスの様子を写真で見る 日本の原風景が広がる山里に外国人が続々!
古民家ゲストハウスでスローライフを体感 in 福岡県・八女市
最寄駅から車で1時間。山の上の限界集落にある古民家宿へ、大勢の外国人が来ている。 オーナーの坂本治郎さんは元自衛官で、世界放浪旅のあと、福岡県八女市に移住。空き家になっていた祖父母の家で暮らしはじめると、海外で友達になった人たちが遊びに来るようになった。その後、縁あって、山奥の取り壊し予定だった古民家をもらい受ける幸運に恵まれた。 「眺めも素晴らしいし、天然水だし、台所には竈も残っている。ひと目で気に入りました」 地域の人や友人たちの手を借りて改修し、2017年にゲストハウスとして運営を開始した。 「当時はお金の稼ぎ方もわからない無職。ほかにこれといった特技があるわけでもなく、消去法で唯一できそうな生業がこれでした。ゲストハウスはよく利用していたので、僕が居心地のよさを感じた、温かいもてなしを提供すればうまくいかなと」 坂本さんは海外放浪で培った英語力を生かし、世界中で利用されている民泊サービス『エアビーアンドビー』に登録。交通不便、山奥の一番上に建つ古民家、お茶畑に囲まれて棚田が広がる……などの特徴をPR。未知の日本の田舎でユニークな体験ができると、世界中からゲストが訪れるようになった。町から離れた山奥にあるため、旅人同士の交流が生まれやすいという点も注目を集めた。 「日本人客も多いんですが、繁忙期は予約争奪戦で外国人に負けている印象です(笑)」 私たちが訪ねた日も4組計10人のフランス人と韓国人1人の5組が宿泊。彼らには「自然が好き」で「人ごみが苦手」という共通点がある。そのせいか、典型的な日本の原風景に違和感なくなじみ、会話を楽しんでいる。ヘルパーとして長期滞在中のフランス人、トマさんもこの地に魅了されたひとりだ。 「お茶畑や水田の中に古民家がある風景は、ブドウ畑にシャトー(ワインの醸造施設)がある風景と同じ空気が流れていて、リラックスできます」 近年、日常生活の疲れを癒やす休息の旅「リトリート」が注目されている。棚田を散策したり、縁側でお茶を飲んだり。彼らの旅はまさにそれ。日本の隠れ家的田舎で、穏やかに流れる時間を楽しんでいた。 ・オーナー 坂本治郎さん 1985年福岡県生まれ。約6年間の世界放浪の後、29歳で福岡県八女市に移住。ゲストハウス裏手で無農薬茶の栽培もする。7年間で当地を訪れた外国人は推定1万人。八女市の魅力を発信して移住者を増やすべく、市議会議員としても活動。 ◆DAY 1 ゆるやかな時間が流れる古民家で思い思いにリラックス ・まずはウエルカム・グリーンティー♪ 坂本さんが作っている無農薬の緑茶でゲストをおもてなし。緑茶は海外での知名度も高く、ゲストも大喜びだった。 ・インドア派もアウトドア派も楽しめる! 母屋の屋根裏部屋や畳の大広間など、パブリックスペースが広いことも好評。 近くにあるヒミツの天然プール。夏はここで水遊びをするゲストも多い。 ・ときにはBBQイベントも ゲストも自主的に手伝いながらBBQを準備。フランス人のベンさんは、指先で小さなひし形を作って唇に当て、勢いよく空気を送る火おこし術を披露。海外でも白ご飯は人気なようで、みなおいしそうに食べていた。 ◆DAY 2 やりたいことはまず、リクエスト! ・ここでしかできないニッポンを体験 ゲストたちは山の上の限界集落でどんな時間を過ごしているのだろう? 「昨日はお茶畑の剪定をしました」とヘルパーのトマさん。掃除などの仕事を終えたあとの自由時間はギターを弾いたり、スマホをいじったり。彼らは日本の田舎の生活に触れるという特別な体験を、心ゆくまで楽しんでいる。 鹿児島へ向かう途中で1泊したベンさんは、息子さんの希望で、坂本さんの許可を得て、朝から青竹を切り出していた。「カップに加工して使いたくて」 坂本さんは茶摘み体験やお茶工場見学などの体験プランも用意しているが、要望があればその都度、柔軟に対応している。 「ここは僕たち家族も住んでいるし、暮らしの延長線上にある宿。だから、彼らが興味を抱いた日本の暮らしを、体験させてあげたいと思っています」 ・茶畑で農作業のお手伝い 日本語を学ぶために来日したトマさんと、お茶好きの大学生テオさん。ヘルパーとして滞在。 ・切り出した青竹でクラフト 母国に自生していない竹が気になり、伐採したベンさん父子。坂本さんはこうした要望にも柔軟に対応している。 ・天空の夕日ツアー ゲストに声をかけて夕日を見に行くことも多い。風にゆらぐ棚田が赤く染まっていく様子を静かに楽しんだ。 ・竈+羽釜で飯炊き 台所には竈が備わり、機会があれば羽釜でご飯を炊く体験もできる。おこげのおいしさに目覚めたゲストも。 ◆何もないけどなんでもある! 大正時代の古民家を改修。茶畑と棚田に囲まれ、日本ならではの穏やかな風景が楽しめる。ドミトリーは1名1泊4,000円、個室は1名6,000円~。 ・天空の茶屋敷 住所:福岡県八女市黒木町笠原11260 ※構成/松村由美子 撮影/江藤大作 (BE-PAL 2024年10月号より)
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