なぜ大谷翔平はこれほどまでに愛されるのか? 一挙手一投足が話題を生む、新しいタイプの国民的スーパースター像とは<RS of the Year 2023>
新しいタイプの国民的スーパースター像の誕生
もちろん、大谷翔平といえどユニフォームを脱げば29歳の一人の青年だ。周囲が思うような完全無欠、清廉潔白なアスリート像が彼のすべてとは限らない。ただ、少なくとも、グラウンド上で見せる圧巻のプレーや、些細な行動、所作は彼の本質の一部なはずだ。 その姿は過去、同じようにメジャーリーグで活躍したイチローや松井秀喜とも違う。イチローはグラウンドでは限りなく感情を押し殺し、常に寡黙で冷静な印象で、クールなカリスマ性を発揮した。松井はニューヨークメディアが選ぶ「グッドガイ賞」に選出されるほど丁寧なメディア対応に定評があり、グラウンド上では「巨人軍は紳士たれ」の教訓を守って感情を露わにすることは滅多になく、温和な紳士としてファンに愛された。 その意味で、プレー中はかつてないほどのパフォーマンスを発揮しながら、それ以外ではチームメイトと笑い合い、ふざけ合う野球少年のような大谷翔平は、令和という時代、SNS全盛のこの時代とも非常に親和性が高い「新しいタイプの国民的スーパースター像」と言える。 筆者も日本時代に二度ほど、大谷翔平にインタビューを行ったことがあるが、渡米後の現在も含めてメディアの前では決して多くを語るタイプではない。質問に対しては言葉を選び、慎重に受け答えしているのが印象的だった。 アスリートとして、メディアを通してファンに発信することはもちろん重要だ。ただ、大谷翔平はメディアを通してだけでなく、グラウンドでのプレーと所作で、多くのことを語ってくれる。 野球界はもちろん、スポーツ界には「競技さえやっていればいい」という考え方が今なお根強い。ただ、少なくともプロのアスリートが「競技さえやっていればいい」時代は終わった。プロである以上、それを支えるのはファンの存在だ。プロスポーツは今や数あるコンテンツの中の一つで、他競技だけでなく、さまざまな“エンタメ”がライバルでもある。 プロアスリートが競技で結果を残すことを目指すのは大前提だが、その先のファンや、もっといえば「ファンではない層」に向けてその魅力を伝えることは、今後の発展において不可欠なファクターでもある。 その意味で、大谷翔平というプロアスリートは、野球という競技で異次元の結果を残し、その所作で人間的魅力を多くの人に伝えている。おそらく、本人はそこまで意識していないだろうが“令和のエンタメ”“令和のスポーツ”において完璧に“プロフェッショナル”を貫いている。 現在はトレード報道も過熱し、FAとなる今オフにはMLB史上最高額契約が確実視され、日本でも大谷翔平関連のニュースが連日お茶の間を席巻している。野球選手としての実力、人間性、SNSやネットとの親和性、それに伴う国内外でのファンの熱を見ると、それも当然のことだと納得できる。 <了>
文=花田雪