[クラシック回顧2024]音楽家と聴衆の間に強い連帯感…小沢征爾、歴史の一章に
クラシック音楽界の頂点を極めた指揮者の小沢征爾が世を去った2024年は、ひとつの時代の終わりとして記憶されるだろう。「世界のオザワ」が栄光の一ページとなる一方で、音楽家と聴衆は生演奏を通じた一体感を求めて新たな関係を結ぼうとしている。(松本良一)
コンサートが終わるやいなや「ブラボー!」の掛け声が飛び、多くの客が立ち上がって長い拍手を送る。かつては珍しかった光景を今年はよく目にした。コロナ禍を経た後、聴衆は優れた演奏に対してより前向き、直接的に喜びを表すようになった。「謹聴」から「参加」へ。演奏家と聴衆は以前より強い連帯意識で結ばれているようにみえる。
■オペラ実り豊か
時代の変化を実感させたのは、人気女優の橋本愛が一人で演じた現代作曲家シャリーノの「ローエングリン」。明確なセリフやメロディーがほとんど出てこない難解な作品を観客は熱狂的に受け入れた。また東京二期会のコンビチュニー演出「影のない女」は、ストーリーの大胆な改変が賛否を巻き起こし、観客が積極的に作品と向き合うきっかけを作った。
一方、イタリア・オペラ・アカデミーで「アッティラ」(演奏会形式)を指揮したムーティは巨匠の貫禄を見せつけ、今年で引退する指揮者の井上道義は「ラ・ボエーム」で有終の美を飾った。新国立劇場の新制作「夢遊病の女」「ウィリアム・テル」は充実した音楽で作品に新しい光を当てた。海外勢は円安などの影響で興行的に厳しい中、英国ロイヤル・オペラが「リゴレット」で気を吐いた。
■オーケストラ
在京オーケストラでは、指揮者カーチュン・ウォンを擁する日本フィルハーモニー交響楽団、「ばらの騎士」を演奏会形式で取り上げたノット指揮の東京交響楽団、97歳の大御所指揮者ブロムシュテットを迎えたNHK交響楽団、欧州公演ツアーで実力を示したヴァイグレ指揮の読売日本交響楽団の活躍が目立った。また小沢征爾亡き後の「セイジ・オザワ松本フェスティバル」を託された指揮者の沖澤のどかは、ネルソンスの代役として急きょ2公演を振って万雷の拍手を受け、世代交代を印象づけた。濱田芳通(指揮・リコーダー)率いる古楽アンサンブル・アントネッロの活躍も頼もしい。