妊娠中にエベレスト登頂の快挙を達成!「父は私のことを息子だと言い…」逆境にも負けない奇跡の物語
2024年の7月に公開された『ラクパ・シェルパ:勇気ある登頂』。このドキュメンタリー映画の主人公であるラクパ・シェルパ(48歳)は、ネパールの農村部でヤク飼育農家の娘として育った。彼女の文化では、「女性が家にいて家事や家族の世話をすることが当たり前だった」ため、ラクパには教育や働く機会を与えられなかったという。80~90年代になると状況は変わり、今では女の子たちも学校や大学に通えているよう。そんな男性優位の社会で育ったラクパは、20歳で未婚のまま息子を出産し、村から追い出されてしまうのだ。 【写真】妊娠中にエベレスト登頂を達成したラクパ・シェルパの登山中の姿
その後ラクパはアメリカに移住し、ルーマニア人のジョージ・ディジマレスクと結婚。二人の娘、サニーとシャイニーを授った。だが、夫のジョージはアルコール依存症を抱え、ラクパに暴力を振るうようになり、ラクパは家を出て、女性シェルターに避難することを余儀なくされる。現在はコネチカット州に住み、清掃員として働きながら、クラウドファンディングを募って登山資金を集めているが、今でも読み書きはできない。 彼女のストーリーは、性差別、貧困、虐待関係に立ち向かう女性の強さの象徴であり、彼女を追ったドキュメンタリー映画『ラクパ・シェルパ:勇気ある登頂(原題:Mountain Queen)』では、山を登ることが、「自分の強さを示す手段」となったことが描かれている。 「これは男性だけがするものだ」と、家族や友人に反対されながらも、彼女は男性に見えるように髪を短く切り、ポーターとなって観光客のために物資を運搬する仕事に就いた。そして彼女は成功を果たした。2000年には、エベレストに登頂し生還した初のネパール人女性となったのだ。 こうして彼女は、故郷の村で英雄に。だがそれもまた、ひねくれた性差別へと発展することになる。「父は私のことを息子だと言い、息子のように扱われるようになりました」とラクパ。今では、エベレストを10回登頂した唯一の女性となり、そのうちの1回は、驚くことに妊娠中だったという。そして2023年には、世界で2番目に高い「K2」への登頂を果たした。 ラクパとの対談で私は、映画で見たとき以上に彼女の揺るぎない意思の強さにさらに惹きつけられた。妊娠中にどうやって登山を乗り越えたのか尋ねると、彼女はこう答えた。「立ち止まっている時間はありません。確かに不安でしたが、普段と違う特別なこともしていません。とにかく進むしかありませんでした」 映画の最後のシーンでは、ラクパが二人の娘、サニーとシャイニーに登山を教えている姿が映されている。娘たちにもラクパのような登山家になることを望んでいるのか尋ねると、「もし彼女たちがそれを望むなら、エベレストだって登れるでしょう」と平然に答えた。彼女たちの足を止めるものなんて何もないのだ。ラクパは、自分自身に対してだけでなく、他のすべての女性に対して揺るぎない自信を持っている。