借金に追われ丸腰の素人がいきなり脚本執筆――緒乃ワサビという人気ゲーム脚本家を育てた生存戦略
天才×美少女×タイムパラドックス×暴走する量子=世界を揺るがす青春小説&ちょっとミステリ と、その筋の人にはたまらない要素天こ盛りの惹句で発売された、『天才少女は重力場で踊る』。 著者の緒乃ワサビ氏は、Laplacianというゲーム制作会社の代表で、代表作『白昼夢の青写真』は、その重層的な物語構造だけでなく、ビジュアル、サウンド、演技など、すべてにおいて狂気のごとき作り込みと完成度で、ユーザーの度肝を抜いてきた。 ノベルゲームの世界では既に知られた存在であるが、小説家としてはこれがデビュー作となる。 デビュー作の発売を記念して、小説からゲームまで語り尽くした著者インタビューを、3回に分けて大ボリュームでお届けする。 聞き手・新井久幸(担当編集者) *****
ルーツ・オブ・緒乃ワサビ
――今度は、創作事始め、ルーツ・オブ・緒乃ワサビ、みたいなところを、聞いていきたいと思います。そもそも、創作を志したきっかけは、何でしょうか。 影響を受けたということでいえば、真っ先に思い浮かんだのは、マイク・オールドフィールドというイギリスのミュージシャンです。『エクソシスト』のテーマを作った人、と言ったら、ピンと来る人も多いかもしれません。 今みたいにコンピューターで作曲なんかできない時代に、全部の楽器を自分で演奏してテープに何重にも録音して作った曲なんですよ。それを全くの無名だった19歳の青年がやってのけた。一人で何かを突き詰めて作る、ということに対して、強い憧れを感じました。 ――今でも、やはり強い影響下にあると感じますか? 病的とも言える突き詰め方は、自分の物作りの指標となっていると思います。 彼のデビューアルバムには、冒頭のキャッチーさ、一つ一つのフレーズの洗練具合、緻密な全体構成に、メロディーを使った伏線回収みたいな仕掛けとか、自分の好きな創作物の要素が、全部入っている。 ――音楽の世界以外では、そういう人はいますか? 自分でも創作を始めてから好きになったのは、伊丹(いたみ)十三(じゅうぞう)です。ああいう、高水準でなんでもできちゃう人が好きなんですよね。マイク・オールドフィールドは、楽器をなんでもできちゃう。伊丹十三は、役者で、映画監督で、シナリオを書いてもエッセイを書いても上手い。拘(こだわ)りも凄くて、役者の立ち位置も、ミリ単位で指定していたって話を聞いたことがあります。職業として創作をする身として、凄まじく尊敬しています。 小説ってすごい、という感覚を初めて味わった作品は、村上春樹の『海辺のカフカ』です。母親が村上春樹が好きだったので、家にあったのを、小学生の頃に読みました。一言で説明できるような物語ではないし、小学生にはよくわからないことも多かったんですけど、それでも面白かったんですよね。よくわからないのに面白い。小説ってすごいかも、と思った原体験です。