レミ・ウルフが語る、ファンキーソウル新世代の成長過程
新世代ファンキーソウルポップシンガー、レミ・ウルフ(Remi Wolf)がフジロック初出演。1996年生まれ、米カリフォルニア州出身。2021年のデビューアルバム『Juno』が2億回以上のストリーミング再生を記録し、ドミニク・ファイクやノラ・ジョーンズとのコラボでも話題を集めてきた彼女が、待望の2作目『Big Ideas』を7月にリリースした。周囲の注目と共に生きる術を学んでいるという未来のスター候補が、オルタナティブな音楽観と創作術を語る。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」
定型を逸脱するポップミュージック観
レミ・ウルフは、私たちがニューヨークのチャイナタウンの脇道におさえておいた金属製のテーブルの周りを見渡す。「クソッ、木が見当たらない」。彼女はふたたび頭を振りながら言い、それから探していたものを見つける。2メートルほど離れた床屋の前に木製の椅子が2脚あった――彼女にとってそれは幸運の連鎖の鍵、あるいは少なくとも悪運を遠ざけるものなのだ。「木を叩くのが習慣になってるの」。小走りして椅子の座席をこぶしで2回叩いてから、彼女は言う。「私の友達も同じ。 彼からうつったのかも」(訳註:魔除けのおまじないとして木を叩いたり触れたりする民間伝承がある)。 28歳のウルフは現在、数多のスターたちから支持を集めており、どんなチャンスでも掴み取れそうだ。3月にインタビューした2~3週間後には、彼女はパラモアとロードとの仕事を終え、オリヴィア・ロドリゴのオープニングアクトとしてヨーロッパ各地を2カ月で巡るツアーに出た。そして次の大仕事――彼女にとって2作目のアルバム『Big Ideas』が7月にリリースされる。 ウルフは1年以上にわたって、ステージとスタジオ、ロサンゼルスの自宅を行き来しながら、2021年のデビュー作『Juno』に続く作品を制作する生活サイクルに馴染んできた。現在、彼女はまったく異なるルーティンにふたたび適応しようとしている。「曲を全部書いて、このレコードを作ったから、いまは仕事の残りの半分に取り組むところ。つまり表に出て、いい感じに見えなきゃいけない」と、彼女は言う。「私はただ自分が自然にできることを何でもするようにしているんだけど、ときには――常に周りから見られるようになると――それが自分の精神にどんな影響を及ぼしているのかよくわからなくなる」。 ウルフは2022年に、そうした注目がいかに自分を変えるのか、いくつかの兆候に気づいた。彼女は自分が目にしたものが好きではなかった。「不安でたまらない時期をくぐり抜けてきた」と、彼女は振り返る。 「家から出られなかった。 私が知っている人にも私を知っている人にも会いたくなかった。心の底から『誰かに利用されたり、何かを要求されたりするかもしれないって考えに対処できない』って感じで」。強く結びついた友達の輪を維持することが、この問題を最小限にとどめる助けになったと彼女は語る。 『Big Ideas』では、ウルフが15歳の頃から知り合いのプロデューサー、ジャレッド・ソロモンが戻ってきている。ドラマーのコナー・マロイもまた、彼女の人生の主要な登場人物だ。ふたりは2010年代半ば、ウルフが南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校に通い、10人ほどが暮らす「ゴキブリだらけの」家に住んでいた頃に出会った。ウルフは当時の彼女を知る人々に特別な思いを抱いている。彼女が開いたパーティや部屋でひとり作った曲は、学校の授業以上に学習に欠かせないものだった。 「私は悪い生徒で、授業を聞かなかったし、出席もしなかった」と、ウルフは認める。「つまり、いくつかの授業には出たけれど、その多くは『正しいやりかたを教えてしんぜよう』って感じだったから、ずっと寝てた」。 したがって、彼女のポップミュージックはマックス・マーティンのようなメロディ重視の計算されたものとはかけ離れている。彼女の詩はしばしば、親しい友人たちのグループチャットから漏洩したメッセージのように、すごく具体的かつとりとめがない。そして彼女のメロディは、ひとつのサビのうちに3つの異なる形をとったりする。伝統的なポップアーティストの多くが洗練されたストーリーラインと新品らしいプロダクションを追及するのに対し、ウルフは歪んだシンセサイザーと混沌とした人間関係をバターミルクをゼロから作ることに例えるような比喩を好んでいる。 彼女はここ数カ月、TikTokによって自分がますます 「ポップ消費者」になったと考えている。「アリアナ・グランデのアルバムにハマるようになったのはTikTokの影響だと思う」と、彼女は言う(『eternal sunshine』はアリアナとマーティンとの共同プロデュースだ)。そして、ウルフとこのベテランのスーパープロデューサーには重なるところがある。「私は音節の心地よさにこだわりがあるの」と、ウルフは言う。「意味が通る言葉よりも気持ちのいい言葉を口にしたい」。