社説:トランプ氏人事 強権化への不安が募る
トランプ次期米大統領が来年1月に発足する新政権の人事を次々に打ち出している。閣僚候補では、担当分野での経験が乏しく、資質に疑問符が付く顔ぶれが目立つ。 米政権の布陣は、バイデン政権からの政策転換のみならず、日本や国際社会への影響も大きい。過度の「米国第一主義」がもたらす混乱への懸念が募る。 米軍を統括する国防長官には、テレビ司会者のヘグセス氏を指名すると表明した。人員340万人を抱える国防総省のトップに、軍要職の経験がない人材を充てるのは異例で、安全保障政策に関する力量が不安視されている。 司法長官には、不倫口止め事件や支持者による議会襲撃事件などで刑事責任を問われるトランプ氏を一貫して擁護するゲーツ元下院議員の名が上がる。司法省への猛烈な批判を繰り返すほか、自身も違法薬物使用や未成年と性的関係を持った疑惑を抱える人物だ。 いずれもトランプ氏が、自らの意に沿わない軍や司法省に、敵対するトップを据えて、復讐(ふくしゅう)を試みていると米メディアは指摘している。権力の私物化を図る思惑が透け、憂慮せざるをえない。 外交を担う国務長官に指名されるルビオ上院議員は、中国に対する最強硬派の一人。中国政府が制裁対象に指定しており、米中間の対立が高まる恐れがある。 医療や公衆衛生を担う厚生長官候補の元民主党のロバート・ケネディ・ジュニア氏は、陰謀論に基づき新型コロナウイルスワクチンを敵視する姿勢をとり、専門家の間で懸念が広がっている。 適格性を疑う顔ぶれに共通するのは、トランプ氏への忠誠心や大統領選での貢献度だ。1期目政権では要職に就いた大物政治家や軍幹部らが一定の歯止め役になったものの、対立した末に辞職や更迭が相次いだ。今回はイエスマンで固める姿勢が明白である。 ゲーツ氏らの起用には、共和党内でも危惧する声が強い。 注視すべきは、政府外の新組織「政府効率化省」トップへの実業家イーロン・マスク氏の起用だ。政府の規制や公的部門の縮小の主張は、経営する電気自動車や宇宙関連の企業の事業拡大と表裏一体とみえ、利益相反を招くとの懸念が拭えない。 共和党は上下両院で過半数を獲得し、トランプ氏は強力な政権基盤を手にした。議会は、大統領による権力乱用や独善的な政治手法に目を光らせ、ブレーキをかける責任が問われる。