触れるものすべてがゴミクズに…60日足らずで「10万ドル」溶かした、我が愚かな義弟。投資初心者の失敗原因【ウォール街・伝説のブローカーの助言】
義弟の投資失敗原因を分析…たった60日間でなにが起きたのか?
損失が発生した60日間、つまり2022年2月8日から2022年4月8日までのあいだ、義弟が投資していた2つの市場はほぼ平坦で、大きな動きはなかった。 具体的には、米国の株式市場の指標であるS&P500は、2022年2月8日時点で4521.54、2022年4月8日時点で4488.28と、たった0.7パーセントの緩やかな下落であり、暗号資産市場の指標であるビットコインの価格は、2022年2月8日時点で4万4340ドル、2022年4月8日時点で4万2715ドルと、たった3.7パーセントのこれもまた小幅な下落であった。義弟の97パーセントの損失と比較すると、ほんのわずかである。 ただ、義弟の名誉のために言うと、単に投資初日と60日目だけを比較するのは誤解を招く。義弟が、一旦買ったものを保持する長期投資戦略をとり、すべての投資を少なくとも60日目まで売らずに保持していたならば、投資初日と60日目の数字には大きな意味がある。 しかし、義弟のケースは明らかにそうではない。長期保有戦略をとるならば、ある程度の期間持ち続け、厳選した投資の潜在成長能力を活かそうとする。しかし、ざっと目を通しただけでも、義弟の取引明細書は何十もの売り注文で埋め尽くされていた。 実際のところ事態をもっと詳しく知るには、投資初日と60日目に注目するだけではなく、その間に何が起こっていたのかにも目を向けなければならない。 米国株式市場も、特に先行きの見えないときやブラックスワン的な事象[株式市場や経済に壊滅的な衝撃を与える、予測不能な非常に稀な出来事]に直面したときなど、それなりに大きな動きを見せることはあるが、暗号資産市場は米国株式市場よりもずっと変動が大きい。義弟の投資行動がどれほどアグレッシブだったかによっては、彼の損失は、日々の激しい変動とタイミングの悪さの合わせワザによるものだった可能性がある。 つまり、「安いときに買い、高いときに売る」という昔ながらの投資の鉄則に従うかわりに我が愚かな義弟は、高いときに買い、安いときに売るのを、有り金をほとんど失うまで、何度も何度も繰り返したということだ。 これらのことを心に留め、ここで先ほどの2つの指標を、日々の変動を考慮してもう一度見てみよう。おそらく今度は、先ほどは安定しているように見えた期間に生じた義弟の巨額の損失の理由がわかるだろう。 次の図表は、2022年2月8日から2022年4月8日までの各指標の日々の変動を視覚化したものである。この表によれば、ビットコインは3月16日に3万7023ドルの最安値を、3月30日に4万7078ドルの最高値を計上し、60日間の変動幅は21パーセントである。 一方、一般的に変動性がずっと少ないS&P500は、3月8日に4170ドルの最安値を、3月30日に4631ドルの最高値を計上し、その変動幅はたった9パーセントである。 この新たなデータをもとに、9万7000ドルの損失の謎に迫ろう。日々の変動を考慮すると、投資初日と60日目だけを抜き取れば安定的に見えた裏の隠されていた実態が明らかになるだろうか? つまり、義弟は、あまりにも急激な下げ潮の罪のない犠牲者のひとりに過ぎないということか? 面白い仮説だが、私は直感的に違うと思った。もしそれが正しいなら、義弟は冬将軍が訪れようとするロシアに侵攻したナポレオン顔負けのタイミングの悪さで、毎回有り金を突っ込んでいないと計算が合わない。 手掛かりを探して取引明細書を精査した。殺人現場を嗅ぎ回る刑事になった気分で。唯一の違いは、血の海のかわりに、赤インクの絶望の海をかき分けていることくらいだ。 事実、最初の7日間の一握りの勝ち――ビットコインを4万1000ドルで買い、4日後に4万5000ドルで売り、そして暗号資産イーサリアムを2900ドルで買い、1週間後に3350ドルで売った。そしてテスラの株とオプションを買ってどちらも数日後に売り、合わせて2万ドル超の利益を得た――を除き、彼が触れるものはすべてがたちまちゴミクズと化した。