自民党総裁選の結果が与える「増税」「減税」への影響は?
自民党総裁候補たちがそれぞれ公約を発表する中で、注目を集めているのが税制に関する公約です。増税派、減税派、税務申告変更派と多様な公約が咲き誇っています。 主張する候補者が総裁に選ばれると、直ちに税制が変更され適用されるわけではありませんが、今後の日本の税制の行方を見守るうえで、どのようなアイデアが出ているのか解説します。 ■自民党総裁選候補は誰? 2024年9月11日時点における、自民党総裁選の立候補者は下記となります。 小林鷹之氏 40代 元経済安保担当相 石破茂氏 60代 元幹事長 河野太郎氏 60代 デジタル相 林芳正氏 60代 内閣官房長官 茂木敏充氏 60代 幹事長 小泉進次郎氏 40代 元環境相 高市早苗氏 60代 経済安保担当相 加藤勝信氏 60代 元厚生労働相 上川陽子氏 70代 外務相 初めて耳にする名前、聞いたことある名前、よく聞く名前、自分だったら誰を選ぶ、いろいろな人がいることでしょう。 政治の世界では、支持政党であるかどうかを問わず、政権与党のトップが所定の手続きを経て内閣総理大臣に任命されることとなります。そのため、あなたが他政党の支持者であったとしても、政権与党のトップに誰が就任するかは注目すべきです。 なぜかといえば、トップの意向に沿う流れで政策が立案され、審議され、法制化されるからです。支持しようとしまいと関係ないというのが、筆者の感覚です。世の中の少し先の流れを見るには、政権与党のトップがどのような考えでいるのかを知っておく必要があります。 ■金融所得課税の増税 新NISA(少額投資非課税制度)が注目を集め、iDeCo(個人型確定拠出年金)も改革を進めている途上で不定期に湧き出てくる金融所得課税の問題。今回は石破茂氏と林芳正氏が公約に掲げています。 金融所得課税が注目を集める際に、たびたび悲鳴が聞こえるのは新NISAが課税される! iDeCoに課税される! といった内容です。 新NISAについては、所得税を非課税とする制度ですので、金融所得課税の対象から外れるのが一般的な見通しです。ただし、所得税は非課税であっても、社会保険料の計算対象とする余地はありそうに思います。ただし、それには確定申告を通じて所得情報を認識する必要があり、今のところ現実味はなさそうです。 iDeCoについては、退職所得控除と公的年金等控除による所得税の減税措置がセットになっており、所得税法の改正によって実質的に課税強化となる道は十分あります。例えば、すでに議論になっている退職所得控除の縮小もしくは撤廃。あるいは退職所得の計算上の2分の1課税と表現される所得を50%オフにしてから課税する特殊な手法にメスが入る可能性はありそうです。 金融所得課税の主なターゲットは富裕層と言われますが、日本の税制において当初のターゲットは富裕層であっても、中間層に対象が降りてくることは当然考えられます。給与所得控除、相続税の基礎控除がいい例でしょう。 一度増税してしまえば、後の課税対象者の調整は、蛇口をひねるようにコントロール可能です。投資を推奨しながら、出口で罠を設置して大きな口を開けて待つ。童話のような展開です。 ■スタートアップ課税の減税 小泉進次郎氏はスタートアップ課税の減税を訴えています。スタートアップに関する課税においては、すでにエンジェル税制というものが存在します。1つは出資額を所得税額控除できるもの。もう1つは出資持ち分を売却した際の非課税です。 公約にした以上は、現在以上の優遇を実施したいということなのでしょう。個人や法人からの出資を増やす流れを作ることは賛成ですが、利益に対する非課税ではなく、出資額の所得税額控除の上限をなくすなどのほうが、国民の納得感があるのではないでしょうか。 エンジェル税制の解説 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/angel/structure/index.html ■年末調整廃止への変更 総裁選候補の発信で最も物議を醸した可能性があるのは河野太郎氏の将来的な年末調整の廃止です。税金や各種計算が苦手な人からは批判が出てもおかしくない案です。 ただ、個人的には賛成です。その代わりに、e-taxをもっと使いやすくする必要はあります。国税納付のe-tax、地方税納付のeLtaxは、両方とも使いやすいとは言えません。まず、ログインするためのマイナンバーカードを携帯側が認識するアプリを備えていないことがあり、マイナンバーを認識しなければe-taxによる国民皆確定申告が実現することはありません。それくらい、最初のログインができない事態が想定されます。 やったことのある人はすぐわかると思います。電車の自動改札で電子決済しようとしたら残高不足でバーが閉じてしまうように、ログインができないのはとてもストレスを感じます。ですが、ログインさえできてしまえば、その後は簡単です。つまり、入場の仕組みを改善すればとても便利になる可能性があります。 企業側においても、年末調整事務は手間ですし、余計な人手、時間、費用が発生します。個人個人が自分の力で確定申告するようになれば、企業の生産性は一部向上します。 ■増税しない英断派? 茂木敏充氏は「増税ゼロ」、増税しないと発信しました。珍しいといいますか、国民に配慮した様子を感じ取れます。一方で、社会保障分野では、高所得者に相応の負担をお願いしたいとあります。これは、おそらくは年金受給者の医療費自己負担の3割化を目指すということだと推察されます。 筆者にとっては一番まともな政策公約に見えます。今後は、高市氏や上川氏がどのような政策を打ち出すのかが注目です。 ■立憲民主党のテーマは消費税減税か 今回の総裁選では、立憲民主党の党首選も進んでいます。まずは、政権を奪取してからでないと何も動かせないのですが、どのようなことを考えているかまとめます。 枝野幸男氏:インボイス制度をやめたい吉田晴美氏:消費税の一時的減税泉健太氏:給付付き税額控除野田佳彦氏:食料品の消費税率を下げる内輪の議論といってしまうと酷ですが、これからの日本を牽引するにはどうすべきか、といったような議題が出てこないのが残念です。減税も大切ですが、財源が税金である国会議員の報酬を減らすとか、議員定数を減らすという議論を持ち出さないのが不思議です。 自民党の総裁選候補の公約に話を戻すと、誰が選ばれるかで今の貯蓄から投資の流れが加速するのか、投資が一時的なブームで終わるのかが変わりそうです。自分ならどんな公約を考え出せるか考えてみたり、どの候補が総裁に選ばれるとどの業種や企業が利益を得られそうかという投資の銘柄選定にいかすのも面白そうです。 高橋 成壽(たかはし・なるひさ)/1978年神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、2001年にFP資格を取得。投資や保険などのキャリアを経て、2007年にFPとして独立。自身の投資経験と世界の金融ネットワークを活用し、シングルマザーから上場企業の経営者まで、1人ひとりに合わせたお金のアドバイスを提供している。有料のFP相談「 寿FPコンサルティング 」、無料のマネー相談専門家マッチング「 ライフデザインセンター 」を運営。2020年より東海大学非常勤講師として学生向け金銭教育に従事。著書に『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』(廣済堂出版)がある。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
高橋 成壽