米不足で露呈した「日本の農政」の異様さ…「日本の米に未来はない」と専門家が断言する、衝撃の理由
流通の自由化がもたらした弊害
20年前までは、米農家はコメ1俵を20000円で売っていた。その後、米価は下がり続けた。コロナ禍で外食需要が激減した頃は、9000円まで下がった。20000円がなぜ半分以下になったのか。 「コメの流通を自由化したからです」 どういうことか、教えてもらった。 「『食糧管理制度』(1942年施行)により政府は長年、全国の農家からコメを買い上げていました。供出価格と供出量を政府が決定していたのです。たとえば、農家から1俵20000円で高く買い入れ、消費者に安く売っていました」 その差額を政府が補填していた。ところが、1994年に食糧管理制度が廃止。コメの流通が自由化された。それでも当初はまだ政府がコメを大量に買い上げていたため、政府が米価を調整できた。 「やがて買い上げの量が縮小。100万トンに減ったことで、政府が米価を動かせなくなりました」
農家は米を買い叩かれる
諸物価高騰を理由に多くの食品メーカーが値上げしている。農家も米価を上げればいいはずだが、できない裏事情がある。 「米価は、大手小売チェーン店がいくらで売りたいかで決まります。農家は買い叩かれています」 農家の懐具合もコストも関係なく、農家不在のもとで米価が決定されている。 「価格転嫁ができない農家に対し、『農業は大変だよなあ』と言う人がいます。でも、これは他人事ではありません。農業問題はわれわれ消費者の問題。自分の、子どもの命の問題です」
先進国でもっとも農家への補助金が低い日本
米価を上げられないとしても「農家は補助金で保護されているじゃないか」と多くの人が思っているのではないか。記者も長年そう思い込んでいた。けれど、鈴木先生は、「農家は補助金漬けではない」と自著『農業壊滅』に記している。 日本の農家の所得のうち、補助金の占める割合は30%程度なのに対して、英仏では農業所得に占める補助金の割合は90%以上、スイスではほぼ100%と、日本は先進国でもっとも低いのだ。(『農業壊滅』より) この一文にはないが、アメリカは40%だと鈴木先生は指摘。日本と大差がないようだが、この数字には裏がある。市場価格の状況で補助金が変動するのだ。 「たとえば、アメリカの農家がコメ1俵を4000円で売っているとします。生産には12000円のコストがかかるとすると、差額分の8000円を政府が全額負担しています。そのおかげで農家はコメが安くても安心して農業を続けることができます」 鈴木先生は自著『世界で最初に飢えるのは日本』でアメリカの農業政策について言及している。 アメリカでは、コロナ禍による農家の所得減に対して、総額3.3兆円もの直接給付を行っている。また、3300億円を支出し、農家から余剰在庫を買い上げて、困窮世帯に配布している。(『世界で最初に飢えるのは日本』より)