ツキノワグマが庭で歩いていた・・・リビングから窓越しに目撃 クマ目撃情報急増中、餌が減った奥山から里山へ 冬眠を控える秋は動き活溌に
山口、広島、島根県にまたがる西中国山地のツキノワグマ。環境省のレッドデータブックで「絶滅の恐れのある地域個体群」とされ、1994年度から狩猟が禁じられている。しかし近年は目撃が急増。人的被害も出るなどし、30年続く保護政策の現場は揺れている。 山口県内のツキノワグマ目撃件数(グラフ) 9月20日深夜、山口県岩国市美和町の山あいの集落。自宅のリビングにいた会社員鞘本和美さん(37)は、庭のセンサーライトが光っているのに気付いた。窓越しに庭を見ると、体長約1・2メートルのツキノワグマ1頭が歩いていた。 「餌を求めて迷い込んできたようだった」と鞘本さん。とっさにスマートフォンで撮影した。クマは鞘本さんに気づく様子もなく、人が歩くほどのスピードで、来た方向に引き返した。「山に囲まれているが、まさか自宅の庭に出るとは」 山口県内でツキノワグマの目撃情報が急増している。2023年度の目撃情報(痕跡、捕獲含む)は過去最多の444件。その6割が岩国、周南市で、特にクリやカキなどの果樹園が多い北部に集中していた。県自然保護課によると、24年度はさらに前年度から倍増のペースで推移する。 クマは冬眠を控える秋、栄養を蓄えようと活発に動く。NPO法人日本ツキノワグマ研究所(広島県廿日市市)の米田一彦所長(76)は「広島の芸北、島根の石見で餌となるドングリ類などが不作だと山口県東部の岩国市錦、美和、周南市鹿野方面に移動する。この地域は放棄された果樹が多く、カキやクリもある。そこで繁殖している」とみる。 西中国山地は長年、ツキノワグマが命をつなぐ場所だった。しかし、奥山の環境は国の政策で一変。1960年代からスギやヒノキなど建材用の針葉樹が植えられ、ドングリがなるブナなど広葉樹の伐採が進んだ。餌が減った奥山から、人口減と高齢化が進む中山間地域にクマが出てきた。 3県境に近い岩国市錦町宇佐地区。昔からクマが目撃され、近年は果樹の食害が深刻化している。山あいの集落にある栗川カツ子さん(79)の自宅そばの畑では9月中旬、高さ約5メートルのクリの木が荒らされた。実がなった直径約5センチの枝が折られたり、枝を積み重ねた「クマ棚」を作られたりした。栗川さんは「3年前に初めてクリの被害に遭った。この木は今年は収穫できない。枝の回復まで数年かかる」とこぼす。 「ここまでの果樹被害は昔はなかった。里山の味を覚えて出てくる」と近くの中西亮二さん(62)は言う。旧錦町や市の職員として農政に携わり、現在も再任用職員として市の出張所で働く。地域ではクマが寄りつかないよう、果樹の管理強化が進む。市も24年8月、放任果樹対策として撤去費の一部補助を始めた。「果樹を切れば食害は軽減されるが、里山の機能も奪われる。人が減っていく地域で獣害とどう向き合っていけばよいか」。頭を悩ませる。
中国新聞社