46年逃亡の大坂容疑者?逮捕 「公安警察」の仕事とは?
46年前の「渋谷暴動事件」で指名手配中の中核派活動家、大坂正明容疑者とみられる男が先月逮捕されました。この逮捕で重要な役割を果たしたのが、いわゆる「公安警察」です。この男は近く殺人容疑で再逮捕され、東京に移送されて警視庁公安部の取り調べが始まると報じられています。公安警察とはどのような組織で、どんな仕事をしているのでしょうか。元公安調査庁東北公安調査局長で日本大学危機管理学部教授の安部川元伸氏に寄稿してもらいました。 【写真】世界で頻発するテロ事件 日本は本当に安全なのか?
徹底的な秘密主義と執念
「お父さんのお仕事ってどんな仕事なの?」と幼気(いたいけ)な表情で子どもから尋ねられても気軽に真実を語ることができない、それが「公安」という冠詞がついた公職を生業としている人たちの実態です。職務に関する事象はことごとくが秘密扱いされ、任務遂行のために普段から血のにじむような苦労を強いられ、時には自らの健康を害し、退職や職種替えを余儀なくされることも、あるいは家族を顧みることもできずに家庭が崩壊してしまうという例も枚挙にいとまがありません。しかし、そうした影で生きる人たちの努力が報われることがあります。事件発生以来、何十年も逃亡を続けていた凶悪犯の居所をつかみ、検挙に至るというような大きな成果を上げることもあるのです。 中核派(正式名「革命的共産主義者同盟全国委員会」)の活動家で、1971(昭和46)年に東京・渋谷で起きたデモ(渋谷暴動事件)の最中に警察官を殺害し、その後46年もの長きにわたって逃亡し、姿をくらませていた大坂正明容疑者とみられる男が広島県のアパートで逮捕されました。 同じ公安でも、法務省外局の「公安調査庁」は強制捜査権を持たず、暴力的団体に対する調査を行い、その結果、当該団体の解散等の行政処分を同じく法務省外局の公安審査委員会に請求することを主要任務としています。一方、強制捜査権を持つ「公安警察」は、公安事件に関わった容疑者を逮捕するのが仕事です。とはいっても、他部署の警察官とは異なり、逮捕に行き着くまでにさまざまな隠密活動をとるといわれています。 その理由は、既に逮捕圏内に置いている容疑者を泳がせ、更なる容疑者の検挙に結びつけ、相手組織を壊滅にまで追い込んでしまおうとするためです。左翼にしても右翼にしても、権力に立ち向かってくるような組織は秘匿性が強く、組織の内情を漏らすような者は裏切り者として厳しく糾弾され、命を奪われることもあります。彼らにとって天敵ともいえる公安の恐ろしさを熟知している大多数の組織幹部は、常に組織防衛こそが最重要の課題と考えているようです。 公安警察は、捜査対象のことごとくがこのような性格の組織ですから、対象組織の構成員の用心深さ、秘匿性を更に上回るような徹底的な秘密主義と執拗さを貫かざるを得ないのでしょう。捜査の標的になっていることが相手組織に察知されてしまうと、長年積み重ねてきた捜査官の努力が無駄になってしまうばかりか、これまでに苦労して集めた情報、リソースも一瞬にして灰燼(かいじん)に帰してしまう恐れがあるのです。