LGBT先進国アメリカ トランプで分断加速も未来は明るい?
医療保健サービスへのアクセスでも格差
今年7月、トランプ政権はLGBTの人びとが医療保健サービスを受けることがさらに難しくなる規則変更を打ち出した。2019年1月から、道徳的または宗教的信念を理由にした医療保健サービスの拒否を保険業者や医療従事者に対し認めるものだ。この変更に先立つ4月には、オバマケアで明確にされたトランスジェンダーへの差別禁止規則を後退させる計画も発表した。性的指向または性自認のために、医療保健サービスを拒否されるLGBTの人びとは多い。前出のライアンさんの報告書では、小児科医が宗教的な信念を理由に同性婚カップルの6歳になる子どもの診察を拒否したケースも挙げられている。 トランプ政権になってから、LGBT問題の最新ターゲットとして、なかでもぜい弱な立場に追いやられているのが、トランスジェンダーの人びとだ。昨年2月に、トランスジェンダーの子どもが公立学校で性自認に合った洗面所やロッカールームを使えるという保護政策が廃止された。7月にはトランプ大統領が、LGBTの人びとの米軍への入隊を認めないとツイート。続いて10月、公民権法が保障する職場差別からの保護がトランスジェンダーの人びとには適用されないとする司法省のメモが公開された。今年5月に、刑務所内のトランスジェンダーの人びとを性的暴行や嫌がらせから守るために性自認に基づいて収監先を決定するとの規則を連邦刑務所局が廃止。10月21日には、トランプ政権が出生時の性に関して性別の定義を限定し、生涯変更を認めないとする法整備を検討中だとニューヨークタイムズ紙が報じている。これらすべてが、わずか2年の間に起こった。
それでも米国のLGBTの未来は明るい?
ライアンさんとピーターさんは今回の取材で、それでも未来については前向きだと語った。子ども時代から今に至るまで、LGBT問題をめぐって米社会がどれだけ変わってきたかを考えるとき、今目の前で起こっていることには時として暗い気持ちもならざるを得ないが、向かっている方向は「総じて正しい」と感じるというのである。ライアンさんは一部の州で、今年に入ってからも里親仲介事業者の宗教例外が次々と認められた例を出し、「そうした現象は逆に、同性カップルの里親が米国で広く一般に受け入れられていることの裏返し、とみることもできます。昔なら『同性カップルの里親』なんて考えられなかった。二歩進んで一歩後退、社会はそうやって前進していくものです」。 2人が異口同音に語ったことに、若い世代の意識変化がある。政策レベルでは相変わらずノロノロしているが、世論は確実に変わりつつあるという。その原動力が、今や最大勢力となったミレニアル世代(1980年代~2000年代初頭生まれ)だろう。大手調査会社ギャラップが今年発表した統計によると、現在米国のLGBT人口は1100万人超。その数を引き上げているのが他でもないこのミレニアル世代だ。たとえば第2次世界大戦直後に生まれたベビーブーマー世代でLGBTを自認するのは2.4%、一つ下のX世代は3.5%なのに対して、ミレニアル世代は8.2%。この若い世代はLGBTのよりよい理解者であるだけでなく、当事者でもある。 多様だとされるミレニアル世代が、投票パワーをもっとも握っているという点も踏まえれば、米国におけるLGBTの未来は確かに「総じて明るい」と言えるかもしれない。実際、11月初めに行われた中間選挙では、「レインボーウェーブが押し寄せた」とする見方も多い。歴史的な数のLGBT候補が出馬し、当選したからだ。ゲイであることを公表していた候補がコロラド州知事選で全米初の勝利を収め、フロリダ州では市長および議員全員がLGBTを自認する、全米で2つ目の市議会が誕生している。