LGBT先進国アメリカ トランプで分断加速も未来は明るい?
今年1月に発売された「広辞苑 第七版」(岩波書店)には、新しい項目として「LGBT」が追加されました。その説明によると、LGBTとは(1)レズビアン・ゲイ・バイセクシャルおよびトランスジェンダーを指す語。GLBT (2)広く、性的指向が異性愛でない人々や、性自認が誕生時に付与された性別と異なる人々――。夏には国会議員の「生産性がない」との寄稿記事が物議を呼ぶなど、今年は日本でLGBTが関心を集めた年になりました。 アメリカはこうした問題に関して、連邦最高裁が2015年に同性婚を容認するなどの先行事例がありますが、一方で全米を二分するテーマでもあります。LGBTをめぐるアメリカの現状について、ニューヨーク・ブルックリン在住のライター金子毎子さんの報告です。
◇ 今年の夏に自民党の衆議院議員、杉田水脈氏が月刊誌でLGBT(性的少数者)カップルは子どもをつくらないから「生産性」がない、と主張したことに対する抗議は、当事者であるLGBTの人びとを超えて広がった。その社会的な一連の反応は力強く、そこに日本のLGBT事情の今が垣間見えたような気がする。米国は一般的に、ジェンダーやマイノリティをめぐる社会の捉え方、受け止め方において、日本より先進的だといわれているが、はたしてLGBT問題についてはどうだろか? さまざまなマイノリティに対し強硬な姿勢を取り続けるトランプ政権のもとでいま起きていること、変わったこと、そして変わっていないことを、専門家や当事者の声を中心にまとめた。
マシュー・シェパードという名の青年の記憶
ワイオミング州の大学生だった当時21歳のマシュー・シェパードさんが、ゲイであることを理由に2人組の男から凄惨な暴行を受けて殺害された事件から、今年で20年が経過した。1998年10月7日未明に、町外れの牧場のフェンスに血まみれで縛られたまま氷点下にもなる場所に置き去りにされた末の痛ましい死は、日本でも当時報道されたので、覚えている人もいるだろう。 事件から20年の間に、変わったこともあれば、あまり変わらなかったこともある。当時犯人の1人は「ゲイパニック」(同性愛者に恐怖心を覚えてパニックになり、暴力に訴えたという主張)が殺害に至った原因だと弁明した(最終的には終身刑の判決)。現在でもゲイパニックは、実に全米の半分以上の州で同性愛嫌悪者によるヘイトクライムの犯行理由として悪用され、実際に通用しているといわれる。この20年間に「ゲイパニック・ディフェンス(抗弁)」を法律で明確に禁じたのはわずか3州、カリフォルニアとイリノイ、ロードアイランドだけだ。